ファミリーレストランチェーン「ロイヤルホスト」やカフェチェーン「コメダ珈琲店」が高価格帯ゆえに客筋が良いため、店員として働く側にとって「ラクで働きやすい環境」だというSNS上の投稿が話題を呼んでいる。こうした傾向があるというのは事実なのか、そして、同じ飲食業界でも業態などによって働くには「ラクな店」「キツイ店」というのはあるものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
昨今の人手不足を受け人件費が高騰するなか、飲食業界でもアルバイト時給が上昇している。求人情報サイト「Indeed」によれば、東京都の飲食店の平均給与は1381円(16日時点)となっており、都内のホテルのレストランや居酒屋チェーンではアルバイト・パートの時給が1500円を超える例もみられる。少し前には牛丼チェーン「すき家」の一部店舗で時給が2000円を超えるケースも出て話題を呼んでいた。
ファミレスチェーン各社の時給(東京23区)をみてみると、以下のようになっており、概ね1200~1500円といったところ。18時以降や土日、閉店までの勤務になると加算されるケースもあり、深刻な人手不足のためか履歴書の提出が不要という店舗もみられる。
・ガスト:1200~1500円
・デニーズ:1300~1400円
・サイゼリヤ:1300~1550円
・バーミヤン:1250~1563円
・ロイヤルホスト:1300~1690円
ちなみに比較的時給が安いとされるファストフードチェーンをみてみると、
・マクドナルド:1200円以上
・モスバーガー:1200~1300円以上
・吉野家:1200円以上
といった求人が多い。また、以前は比較的時給が高いとされ大学生の定番アルバイトだった居酒屋チェーンをみてみると、
・白木屋:1300円以上
・魚民:1300円以上
・養老乃瀧:1250円
・庄や:1350円以上
・鳥貴族:1200~1600円以上
となっている。東京23区だと「1200円以上」ではないと人を確保しにくい状況がうかがえる。
「20~30年くらい前はマクドナルドのアルバイトは高校生だと800~900円台、大学生でも900円台~1000円くらいだったと記憶しているが、それでも十分に人は確保できた。今では東京都の最低時給が1113円まで上がっており、1150円以上というのが事実上の最低ラインになっているが、かつてと比べると随分と高くなったという印象」(外食チェーン関係者)
<客単価はモロに店内の治安と客層に直結>
そんな飲食業界をめぐって今月、X(旧Twitter)上に
<ロイヤルホストは高い。しかしその価格ゆえ、客はお金を持ってそうなビジネスマンやお年寄り。マダムが多い。客の民度が比較的高いから店内の治安もいい。客単価はモロに店内の治安と客層に直結するってのがよくわかる例だと思う>
という投稿がポストされ、以下のようにさまざまな反応が寄せられている。
<ホテルもそうですよね。客室単価が高いところは客層も治安も良い>
<これはまさしくそうなんですよね。ホテルのラウンジとかも同じく、お年寄りやマダムが俄然多いですし>
<同じく値段設定が高いコメダで働いてた時あるけど本当に客層良いしバイトの子は可愛いし最高だった 数年勤務して私が体験したクレームたったの一回>
<高校生の時の初バイトがロイホだったんだけど、治安も良いところで近くの私立小のお母様方だったり、品のある年配の方が来店されたりで高圧的なお客さんはみたことないけど毎日緊張しながら働いてたな>
こうした傾向はあるものなのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「同じチェーン系でも高価格帯の店舗のほうが働くのがラクという傾向はあります。また、チェーンでなくても店員として働くうえでキツイ店やラクな店というのもあります。お店の見分け方としてのキーワードは『客単価で選ぶ』です。通常、夜の営業における人員配置は、3~5万円の売上に対してスタッフを1名配置するというのが目安です。人件費枠を30%とすると、3万円の売上だと9000円、5万円の売上だと1万5000円の人件費枠となります。店長や料理人の給料が高めで、パート・アルバイトの給料が低めですので傾斜配分がありますが、基準線として時給1200円・平均8時間勤務で9600円の人件費となります。実際はこの枠のなかで時間帯別にシフトを組み、できるだけ効率的に人件費を抑えようとします。
仮に売上が4万円、客単価4000円のお店ならスタッフ1名あたり約10人のお客をこなさなくてはなりませんが、客単価8000円なら約5人のお客をこなせばよくなります。客単価が上がれば相応のサービスや料理の質が求められますが、作業量ベースで考えれば少ないお客を相手にしたほうがラクですし、付加価値を付けることができ、仕事は楽しくなることでしょう。
たとえば店員2人体制の店で売上が10万円、3人で15万円、4人で20万円が目安で、これを超えると結構ハードになるのではないでしょうか。もちろん、機械化・合理化を進め1名のスタッフあたり10万円の売上を上げているお店もありますが、かなりの合理化を進めないと1名あたりの作業量としての限界があり、それを超えるとお客さんにストレスがかかってしまいます。
経営者や店舗責任者のなかには何も考えずに人の配置をケチったり、最近の人手不足で必要な人員配置ができなかったりして、オーバーワークのお店もあったりしますので要注意です。『人がいないから仕方ない』と本来2~3人必要な現場を1人でやらされてしまうこともありますから、面接を担当する責任者の性格を探ったり、現在のスタッフの充足状況をさりげなく聞いてみるのもいいかと思います」
飲食チェーン関係者はいう。
「バイトする側にとって、価格が割安な居酒屋チェーンが最悪というのは、以前からよくいわれていた。一般的に居酒屋バイトはキツイので時給を高めに設定しないと人を確保できないという事情もあり、時給が高めなバイトの一つとして男子の大学生や専門学校生に人気が高かった。低価格の店は『俺はお客』という意識の客が少なからずおり、細かいクレームや文句が多かったり、態度やマナーが悪い客が目立つというのは“業界あるある”。同じ低価格でも牛丼チェーンやカフェなどは、お酒を飲む客が少なく、かつ一人客が多く、飲食したらさっと帰ってくれるので、案外、迷惑客というのは少ない。一方、居酒屋はグループで来店してお酒が入るため気が大きくなりがちで、やっかいな客が増えるという傾向がある」
実際に働いてみないとわからない
では、同じ飲食業界でも、店員として働くうえでキツイ店やラクな店というのは、あるものなのか。また、働き口を探す際にキツイ店とラクな店を見分ける方法として、何か良い方法はあるものなのか。 飲食チェーン関係者はいう。
「あくまでファストフード店やチェーン系の居酒屋との比較での話だが、高価格帯の店やホテルに入っているレストランなどのほうが余裕を持って働けるということはいえるだろう。ただ、そのような店は業務経験が必要であったり、一定レベルの接客のマナーやスキル、清潔感のある身だしなみなどが求められるため、誰でも採用されるわけではない。募集の段階でふるいにかけられるため、職に就く難易度が高くなる。
また、一見すると忙しくてキツそうなファストフードチェーンでも、現場ではかなり分業が進んでいるので、自分の業務に慣れてくれば大変さは軽減されるし、店側もスキルが高いスタッフには長く残ってほしいので時給が上がるケースも珍しくない。また店舗やチェーンにもよるが、同世代の若いスタッフが多くてサークル気分でそれなりに楽しいというケースもあるし、忙しい労働環境での経験がのちの社会人人生で役に立つ機会も出てくるかもしれない。なので、時給などの目に見える待遇以外にも、効果やメリットというのは、実際に働いてみないとわからない」
ちなみに、飲食業界のなかで「学生のうちに、できればこういうお店で働く経験をしておいたほうがいい」というお薦めの業種・業態などはあるものなのか。
「お客さんとのコミュニケーションがとりやすいお店はお薦めです。週に1~2回、気分転換やお小遣い稼ぎで社会人が働いても楽しめますが、学生さんにもお薦めできます。食事やお酒を飲みながらくつろぎに来店する社会人のお客さんから、本音や会社の生の情報が得られます。お客さんとのコミュニケーションから得た情報やコネは就職活動に活かされますし、日ごろ飲食店で社会人と接していると、慣れから面接時に物怖じしなくなります。特に単価の高めのお店だと大企業の役員や部長クラスも来店しますし、接待でも利用されています。飲食店でのアルバイトが不人気ということを最近聞きますが、日ごろ接点のない方々との出会いがあったり、いろいろなお話も聞けたりしますのでアルバイト先候補としていいのではないでしょうか」(江間氏)
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)