パナソニックが展開するデジタルカメラブランド「LUMIX」の新商品が、発売前から炎上している。発売を告知する宣伝サイトで、新製品で撮影した写真にみえる画像が有料の画像素材サイトから購入したものであることが発覚し、批判が噴出。批判を受けて謝罪文を出したものの、その文書の内容がひどすぎるとして、さらに炎上しているのだ。企業の危機管理の専門家は「お粗末すぎる」とあきれる。
大手総合家電メーカーのパナソニックは5月23日、同社が展開するデジタルカメラブランド「LUMIX」から、6月20日にミラーレス一眼カメラ「DC-S9」を発売すると発表した。パナソニックの公式ホームページでは、「DC-S9」の製品紹介や発売記念キャンペーンのお知らせを掲載し、新商品を告知。シリーズ商品はいずれも公式通販サイト価格で20万円を超える高価格だ。サイト上では、各製品の性能や機能を写真付きで説明している。
だがSNS上で、この製品の機能紹介で使われている画像が、発売される「DC-S9」で撮影したものではなく、有料画像素材サイトで販売しているものではないか、との指摘がなされた。一般的に消費者が見て、カメラの製品紹介のサイトにおいて掲載されている画像は、当該製品で撮影したものと考えるのが普通だろう。だが、パナソニックでは素材サイトから購入した画像で製品の機能紹介をしていたのだ。
外部からの指摘を受けて、パナソニックは素材サイトからの購入を認め、謝罪文を出した。
LUMIXファン、カメラファンの皆様へ
— LUMIX JAPAN (@LUMIX_Japan) May 28, 2024
LUMIX S9の商品WEBサイトについて、多数のお問い合わせを頂戴しております。
当社からのお知らせを、商品WEBサイトに掲載いたしました。ご覧ください。https://t.co/DUGYruJk5B
だが、その謝罪文が「怪文書レベル」として、さらに批判の声が高まる事態となっている。
「LUMIX S9の商品WEBサイトの画像について」と題し、「商品WEBサイトで機能やシーンを紹介する画像においてストックフォトサービスから利用許諾を得た画像を部分的に利用しておりました」と事実関係を認めつつ、「クリエイティブを生み出すカメラの商品ページとしてふさわしいかの検討が不十分であったことに加えて、新製品で撮影した写真ではないことへの注釈がお客様にとって、分かりにくい内容と場所での表記となっておりました」と釈明。
続けて、「皆様から頂戴したご指摘を真摯に受け止め、認識を改めて、分かりやすい内容にすると共に、ユーザーの皆様に寄り添ったコミュニケーションを心がけ、カメラメーカーとして、皆様のご期待にお答えできるよう、LUMIXサイト内容の見直しについて協議してまいります」と出直しを誓っている。
危機管理の専門家もあきれる謝罪文
だが、この謝罪文について、危機管理・広報コンサルタントの平能哲也氏は、「お粗末すぎる」とあきれる。
まず、素材サイトから画像を購入して使用した件について、“基本的な想像力の欠如”と指摘する。
「結論から言えば、本件の関係者たちの『想像力の欠如』といえます。これは今回の危機事例に限った事でなく、企業などの組織や個人に至るまで、事件・事故・不祥事などの危機に共通する基本的なポイントです。危機管理や危機管理広報対応においては『マイナスの想像力』を持つことが最も重要でしょう。
今回の事例で言えば、『製品紹介のサイトに、有料画像素材サイトで販売している写真(ストックフォト)が掲載されていたら、誰かがSNS等で指摘するに違いない』『製品紹介のサイトに載っている写真は当然新製品デジカメで撮ったものと思うに違いない』→だからそのような誤解を招く写真使用はやめておこう』といった具合に事前チェック可能な、極めて基本的で単純なことです。過去の多数の事例からも、危機というのは『基本的なこと』『単純なこと』を軽視した結果発生するのがほとんどと断言できます」
次に、謝罪文については企業の外部向け文書の基本がなっていないと首を傾げる。
「こういった謝罪文に、年月日と社名(または事業部名)などが入っていないのはあまり記憶がない。また、文章が曖昧で抽象的。事実関係の説明が不足(=具体的な時系列での経緯など5W1Hの要素がほとんどなく、どうしてこうなったかの経緯がわからない)→よくある責任の所在を曖昧にする手法といえます。
例えば、『検討が不十分であった』『新製品で撮影した写真ではないことへの注釈がお客様にとって、分かりにくい内容と場所での表記』とありますが、確認すると製品紹介のサイトの一番下に小さい文字で<画像・イラストは、効果を説明するためのイメージです>と記述されています。この記述を謝罪文のなかで引用しないのも、読み手に対して不親切です。また、『お客様にとって、分かりにくい内容と場所』の表現は、お客様側にも注釈を読んでいないことの非があるかのようにも受け取られかねず、感情を害する人もいると思われる内容です。
『認識を改めて』との表現も問題があります。つまり、今回のような不適切なこと(皆様から頂戴したご指摘)を特に問題なしと認識していた、とも受け取られる可能性があり、不要な言葉です。『変革をしていく事をお約束』との表現も、なんと大げさな、と驚きます。デジカメの紹介サイトやパンフレットに掲載された写真は、当然その新製品で撮影したと考えるのが常識的な感覚であって、“変革”ではなく基本や一般常識を持ってほしいというのがデジカメ利用者一般の意見ではないでしょうか。いずれにしても、“お粗末”の一言に尽きます」
パナソニックでは、他のカメラ製品でもストックフォトを使っているとの指摘が相次いでおり、これまでも素材サイトの画像で製品説明をしてきたことがうかがわれる。謝罪文についても、パナソニックの公式ホームページ上のニュースページではなく、LUMIXの製品サイトとSNSのみでの掲載となっており、その謝罪文のなかにパナソニックの名前が出てこないことから、「パナソニックの名を隠そうとしている」との指摘も多い。謝罪文によって、かえって批判が出る悪い見本を作ったといえる。
(文=Business Journal編集部、協力=平能哲也/危機管理・広報コンサルタント)