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パナソニック、過去の栄光を再び…車載用バッテリー市場で世界トップへ、マツダと提携

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
パナソニック、過去の栄光を再び…車載用バッテリー市場で世界トップへ、マツダと提携の画像1
パナソニック ホールディングスのHPより

 6月21日、パナソニック ホールディングス傘下のパナソニックエナジーとマツダは、車載用バッテリー供給に関する中長期的パートナーシップに向けた協議開始を発表した。2020年後半、マツダの電気自動車(EV)への搭載を目指し、協議は加速している。パナソニックにとって、その意義は大きい。容易なことではないが、同社がバッテリー市場でのシェア挽回を狙う可能性は高まったと考える。2010年代半ばごろまで、パナソニックは三洋電機の技術を活かし、車載用バッテリー市場で世界トップの地位を確保した。あの頃の存在感を、パナソニックは取り戻そうとしている。

 経済産業省によると、世界の車載用バッテリー需要は、2019年の約4兆円から、2050年に53兆円程度に急増する。脱炭素を背景に他の蓄電池需要も増える。パナソニックはそうした分野で収益力を強化しようと集中し始めた。今後、同社がどのように構造改革を進め、バッテリー分野での収益を拡大するかが注目される。

かつて世界トップだったバッテリー事業

 リーマンショック後、パナソニックは収益分野の拡大に取り組んだ。その一つが、三洋電機の買収によって獲得したリチウムイオン電池などバッテリーの領域だ。なお、三洋電機は、かつての松下電器で就業した故井植歳男氏が創業した。

 三洋電機のバッテリー(電池)事業のヒストリーを、簡単に確認しよう。1960年代初頭、三洋電機は本社ビルの中に中央研究所を開設し、電池の研究開発体制を強化した。成果の一つとして、同社はニッケル・カドミウム蓄電池の生産を開始した。背景には、家電の小型化などに伴い、より長く使用できるバッテリーが、より多く必要とされるといった予想があった。三洋電機は小型化、安全性向上、使用時間の延長などバッテリーの製造技術を磨いた。2010年頃まで「エネループ」のヒットもあり、三洋電機はリチウムイオン電池市場で世界トップの地位にあった。

 2011年、パナソニックは三洋電機を完全子会社化した。それによって、パナソニックはバッテリー分野での事業運営体制を強化し、収益分野は拡大した。特に、車載用バッテリー市場でパナソニックは米テスラ向けの供給体制を強化し、EV向けバッテリーで世界トップのシェアを手に入れた。

 経営戦略の理論にある「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」に基づいて考えると、パナソニックは三洋電機の買収によってバッテリーという「花形(シェアも成長期待も高い)」プロダクトを手に入れた。本来、その分野に、ダイナミックに経営資源(ヒト、モノ、カネ)を再配分してよかった。ただ、それは難しかった。背景の一つとして、1990年代のバブル崩壊後、日本の景気は急速に冷え込んだ。資産価格も下落した。同社にとって持続的な収益増加を目指し、収益分野を拡大することは難しい状況が続いた。

 事業戦略の失敗も大きかった。一つが、プラズマテレビからの撤退だ。2000年代、海外では、すり合わせ型からユニット生産型へ、デジタル家電などの生産方式が急速に変化し、生産コストは逓減した。液晶パネルの製造技術も向上した。プラズマテレビ向けの投資は、2012年3月期など業績悪化の一因になった。

シェア挽回に重要なマツダとの関係強化

 現在、高い成長を実現するためにパナソニックは車載用バッテリー事業の強化に集中している。その一つとして、マツダがパナソニックをバッテリー調達先として選んだことは大きい。近年、日本企業においても、中国企業などからのバッテリー調達を検討する企業は増えているからだ。

 2010年代、中国では共産党政権による土地の供与や産業補助金などを背景に、寧徳時代新能源科技(CATL)が急成長した。創業から6年後の2017年、CATLはパナソニックを抜き、世界トップに立った。韓国では、政府の支援もありLGエナジーソリューションが急速に大量生産体制を整備した。中国EVメーカーBYDも車載用バッテリー分野で成長した。2022年、世界の車載用バッテリー市場では、CATLがトップ、2位がLGエナジー、3位BYD、4位がパナソニックだった。5位のSKオン、6位サムスンSDIとパナソニックの差は縮小した(韓国、SNEリサーチによる)。

 パナソニックがシェア挽回を目指すために、マツダとの中長期的な関係強化は朗報だ。それをきっかけに円筒形リチウムイオン電池需要が増えれば、パナソニックはバッテリー技術の優位性(安全性、航続距離の延長など)を世界に示すことができるだろう。一つの展開として、トヨタとの提携の強化が注目される。パナソニックはトヨタと合弁でプライム・プラネット・エナジー&ソリューションズを設立した。現在、同社は車載用角形バッテリーを生産している。円筒形バッテリーの有用性が示されれば、トヨタをはじめ内外企業はバッテリーの安定調達を狙い、パナソニックとの取引強化に動くだろう。

 それを契機に、国内主要自動車メーカーのEVシフトも加速する可能性はある。日本企業のバッテリー、関連部材の研究開発や生産は強化され、関連する製造装置などの需要も増えるだろう。パナソニックとマツダの連携が波及効果をもたらす可能性は高い。そうした潜在的な成長機会をパナソニックはより重視している。5月18日に開催された、グループ全体の事業戦略から確認できる。重点投資領域に車載電池事業が定められた。電池技術開発を強化し、国際市場での競争優位性を高める方針も明確に示された。

米国のインフレ抑制法という追い風

 先行きは楽観できないが、パナソニックがCATLとのシェアを縮め、世界トップのバッテリーメーカーとしての地位回復を目指す可能性は高まっている。マツダとの関係強化などに加え、事業環境の変化も大きい。2022年8月、米国でインフレ抑制法が成立した。それによって、EVなどを購入する消費者への税額控除などが行われる。2022年度決算説明資料でパナソニックは、インフレ抑制法により2023年度の調整後営業利益は800億円程度押し上げられるとの予想を示した。補助金政策などの恩恵は大きいと期待される。

 また、米国など主要先進国で、経済安全保障の点で懸念高まる中国の企業ではなく、同盟国などの企業から車載用など大容量のバッテリー調達を目指す企業が増える可能性も高い。台湾問題の緊迫感の高まりなど地政学リスクへの対応のためにも、サプライチェーンの多様化は主要先進国の企業にとって喫緊の課題だ。そうした変化もパナソニックに追い風だ。そうした環境変化によりよく対応すべく、2024年4~9月期にパナソニックは当初の計画よりも容量を拡大した新しい円筒形バッテリー「4680」の量産を開始する予定だ。国内の研究開発、生産体制は強化される。米国ではカンザス州で工場の建設が開始された。オクラホマ州でも工場の建設が検討されていると報じられた。

 これまで、パナソニックは家電、供給網管理などのソフトウェア、バッテリーなど事業領域を広げた。ただ、自社の強みがどの領域にあり、どのように業績の持続的拡大を実現するか、成長戦略を明確化することは難しかった。それだけ、バブル崩壊後、「羹に懲りてなますを吹く」というべきリスク回避の心理は強固だったと考えられる。

 現在、パナソニックはその状態からの脱却を急いでいる。車載用のバッテリー事業へ選択と集中を進め、蓄電池分野で収益拡大を狙う方針は明確だ。経済産業省が半導体に加え、大容量の蓄電池分野で補助金を強化していることも、パナソニックの前向きな経営姿勢、先端分野でのリスクテイクを支えるだろう。今後、パナソニックはより大規模かつ迅速に、バッテリーなど成長期待の高い分野へ経営資源を再配分しなければならない。そのために、家電など既存分野でコストカットや構造改革が加速する可能性は高い。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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