また日本大学の不祥事が発覚した。重量挙げ部は入学金・授業料を免除されている奨学生の部員に対して、免除は2年目以降から始まるとの虚偽の説明を行い、免除相当額を幹部が徴収していた。幹部が指示して10年にわたり不正を行い、徴収したお金は幹部が私的に使っていた。なぜ日大で不祥事が絶えないのか。また、経営危機に陥る可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
12日に日大が発表した内容によれば、重量挙げ部の幹部は昨年12月までの10年間、入学金・授業料の全部または一部を免除されている奨学生部員から入部金を徴収する際、虚偽の入学案内と請求書を送付して、免除相当額の金員を金融機関の口座に振り込ませていた。日大はすでに外部の弁護士による調査を行っており、幹部に対する責任追及の手続および被害回復に向けた手続きを開始。同部員らに非はないため部の活動は継続するとしている。
日大の重量挙げ部は名門として知られる。同部出身の村上英士朗選手は今年夏のパリ五輪の日本代表に選出されている。
日大といえば世間を揺るがせた2018年のアメリカンフットボール部の悪質タックル問題が記憶に新しい。問題を受け同部は年度内の出場資格停止処分となり、内田正人監督と井上奨コーチは関東学生アメフト連盟から除名処分を受けた。内田氏は監督と大学の常務理事を辞任。一連の騒動では田中英寿前理事長をトップとする独裁的な経営体制もクローズアップされ経営陣の責任を問う声を高まったが、田中氏は辞任せず。その後、田中氏は21年に日大の関連事業で受け取ったリベートなどをめぐり脱税の疑いを持たれ東京地検特捜部に所得税法違反容疑で逮捕され、理事長を辞任。22年には執行猶予付きの有罪判決が確定した。
昨年には日大アメフト部の複数の部員が学生寮で違法薬物を隠し持ったとして逮捕され、同部は廃部に。澤田康広副学長(当時)が違法薬物の可能性がある植物片を発見しておきながら数日間、放置して警察に通報しなかったことなども発覚し、学長と副学長は辞任。経営改革を期待され22年に就任した林真理子理事長と他の経営陣の対立も伝えられるなか、昨年11月には澤田氏が辞任を強要されたとして林理事長に1000万円の損害賠償を求める訴訟を起こすなど、依然として経営混乱が続いている。
日本大学で不祥事が絶えない背景
なぜ日本大学では不祥事が絶えないのか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。
「スポーツ部活動関連の部署の改革が進んでいないからです。18年の悪質タックル騒動で保健体育審議会から競技スポーツ部へ、23年の薬物事件で競技スポーツセンターに改組されましたが、実態は看板の付け替えにすぎず、同部署の職員や役職者は一部を除き、ほとんど変わっていません。田中元理事長の逮捕を受けて理事長代行(のちに理事長)となった加藤直人氏は21年の記者会見で、職員・管理職に対して田中元理事長との距離感がどうだったのかなどの調査をしない、と言明していました。つまり、旧体制の人事が温存されたわけで、これは隠ぺい体質が続いていることを示しています。
23年のアメフト部薬物事件は18年の悪質タックル騒動と同様、運動部内部の不祥事であり、その点をすぐ謝罪して関係者を処分していれば、それで終わる話でした。ところがへたに隠ぺいしようとした結果、大ごととなり、日大全体のガバナンス欠如という運動部を超えた話に発展してしまいました。今回の重量拳げ部の不祥事については、さすがにすぐ謝罪し、関係者を処分することを発表しました。日大の経営陣や広報部も学習したというべきでしょう。とはいえ、スポーツ関連部署の職員が旧体制とほぼ同じであれば、また別の運動部で不祥事が判明する可能性は十分にあります」
私学助成金の不交付継続につながる可能性
アメフト部の薬物事件を受けて国は、日大への私学助成金を全額不交付とすることを決定。今年の日大の入学志願者数は累計で前年より2万人以上、減少(夜間部を除く4年生大学)するなど、大幅な減収が見込まれている。日大が経営危機に陥る可能性はあるのか。
「資産が7000億円以上ある学校法人なので、すぐ経営危機になることは、まずありません。万が一、経営危機になったとしても回避は簡単です。東京の都心にある大学本部、法学部、経済学部、理工学部、歯学部のキャンパスのいずれかを売却し、別のキャンパスに集約すればいいのです。移転費用や建設費などを考えても、経営危機を脱することは十分、可能でしょう。
今回の重量挙げ部の不祥事は、10年も不正を続いていた点では昨年の薬物事件以上に重いといえます。関係者の処分は当然ですが、私学助成金の不交付が継続される可能性が出てきました。私学助成金は不祥事が起きると不交付、ないし減額処分となります。もっとも重い不交付(100%カット)の場合、2年連続で続き、3年目に満額の25%が支給(75%カット)、4年目に50%支給(50%カット)、5年目に75%支給(25%カット)となり、6年目にようやく全額交付が復活します。
日大は21年の田中元理事長と元理事の逮捕で不交付が決定し、ルールにより22年も不交付。そして23年は本来なら25%が復活となる予定でしたが、アメフト部の薬物事件やその後の経営陣の対立などでガバナンスが欠如しているとして不交付が継続することになりました。
今回の不祥事は、学費などを一部の関係者が私的流用しており、それが20年も続いていたというものです。アメフト部ではなく、別の運動部でこのような不祥事が出て、しかも教育の公平・公正を損なうものです。文部科学省としては薬物事件やいじめ事件などよりも重く見るでしょう。関与した職員に役職者や大学教員、経営幹部がいた場合、より深刻な問題になります。よって、今回の不祥事は私学助成金の不交付継続につながる可能性が高いといわざるを得ません。
日大ほど規模の大きな大学が3年連続で私学助成金の不交付になるというのは前代未聞です。今年も継続となると4年連続となるわけで、不名誉極まりないことです。メディアも大きく取り上げるでしょうし、そうなると24年入試と同様に志願者数の減少トレンドが続くことにもなりかねません」(石渡氏)
都心キャンパスの集約が必要か
経営の混乱もみられるが、今、日大に求められる改革・取り組みとは何か。
「まずは、他の運動部も含めて不祥事の有無を確認するために徹底した調査が必要です。叩けば埃が出る可能性がありますが、来年以降に断続的に出るくらいであれば、一気にすべてを明らかにしたほうが傷は浅く済みます。あわせて競技スポーツセンターの人事一新も必要でしょう。田中元理事長との距離感なども含めて調査していき、運動部の監督など役職者は他大学から起用するくらいの粛清人事が必要です。一時的にスカウトなどができなくなったとしても、不祥事が続くよりは、ましなはずです。
くわえて、私学助成金不交付が続いても経営危機にはならないことを示すためにも、都心キャンパス集約は必要でしょう。日大は総合大学でありながら、学部・キャンパスごとの独立性が高い特殊な大学です。都心の学部ないし本部のキャンパスが複数あるのであれば、いずれかを売却し、いずれかをビルキャンパスにして集約するという手があります。こうすれば、不動産の売却益で経営危機は解消され、何よりも総合大学としての体裁が整い、人気も上がります。本来はこうした改革をもっと早くするべきでした。ただ、日大は学部ごとの独立性が高く、それが難しかったのでしょう」(石渡氏)
(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)