26日に東証グロース市場に上場し、時価総額(公開価格ベース)が約1380億円の大型上場となったタイミー。同社が運営する働きたい人と企業をマッチングするスキマバイトのサービス「タイミー」を利用して働くワーカーの約半数が40代以上であることが話題を呼んでいる。就職氷河期世代の置かれた現状の厳しさを指摘する声もあるが、なぜこのような年齢構成になっているのか。人材業界関係者の声を交えて追ってみたい。
タイミーは当時、立教大学の学生だった小川嶺社長が2017年に創業。18年に「タイミー」のサービスをリリースし、創業2年後の19年には20億円の資金調達に成功。21年度には伊藤忠商事やKDDIなどからも出資を受け、登録者数は右肩上がりに増加。現在の登録者数は約770万人、求人の事業所数は約25万4000拠点に上る。特に求人の事業所数ベースでは、競合サービスの「メルカリ ハロ」(約5万店舗)、「シェアフル」(約5万社)を大きく引き離す。
タイミーの特徴としては、働きたい人がアプリを使って瞬時に仕事を確保することができること。日時・時間を指定して数時間だけの単発のアルバイトを見つけられ、一般的なアルバイト募集で必要な履歴書の提出や面接などが不要で、翌日に働くことが可能。さらに即日に報酬を受け取ることができる。
一方、求人を出す企業側のメリットとしては、求人の掲載料金が無料である点だ。一般的に求人サイトの掲載料は1件あたり約10~15万円ほどといわれており、採用に至らなかったとしてもコストが発生するが、タイミーは採用が成立した場合のみ、企業はワーカーに支払う報酬の30%を手数料としてタイミーに支払うかたちとなる。また、タイミーはサービスを利用して働いたワーカーを事業者が正社員として雇用することを許しており、正社員登用をサポートするサービス(「タイミーキャリアプラス」)も提供している。
「ワーカーへの報酬はタイミーが立て替えるかたちで即日に支払ってくれるため、企業・店舗がいちいちワーカーに銀行口座を確認して個別に振り込む必要がないのは、企業側にとっては意外に大きなメリット」(人材業界関係者)
このほか、きめ細かい各種機能もタイミーが支持される理由だ。事業主は従業員の月額給与が8万8000円を超えると社会保険に加入させる必要があるが、タイミーにはこれを超えないようにするブロック機能がある。年間30万円を超えると事業主は給与支払報告書を従業員の居住する市区町村に提出しなければならないが、これを超えないようにするブロック機能もある。このため、企業・店舗は複数のスキマバイトサービスを利用するより一つのサービスに絞ったほうが業務上の手間が省けるため、先行者であるタイミーが有利となる。
すでに黒字転換
タイミーは26日、東証グロース市場に上場。時価総額が1000億円を上回る大型上場となった。23年10月期の売上高は前期比2.6倍の161億円、税引き利益は18億円と黒字になっている。
「メルカリですら上場時点では赤字だったように、赤字のまま上場するスタートアップが多いなか、すでに黒字転換しているというのは魅力的。売上高に対するコスト比率が12%(23年10月期)となっているなど、財務体質がかなり健全な様子がうかがえる。正社員数はまもなく1000人に達するようなので、もはやれっきとした大企業といっていい。また、社員の半数以上、約600人が営業担当というのも同社の強みであり、テック企業でありながら地道な対面での営業の重要性を経営陣がよく認識している。カギとなる加盟店の開拓の面で競合サービスに対する優位点となっている」(大手銀行系ファンドマネージャー)
「人材派遣会社の領域を食っていくほどの破壊力を感じる。人材派遣は法律的な縛りが強いため利用する企業にとってはかなり面倒で、コストもかかるが、ある程度業務をマニュアル化しておけば『タイミーを使って都度、人を雇えばいい』となるかもしれない。また、近年やる人が増えているクラウドワークは、プログラマーやデザイナー、プレゼン資料作成など比較的専門的なスキルが必要な仕事が多く、ワーカーは自宅でPCを使って作業する系のものが主流だが、その領域とは被らない、一日単位の短時間バイトで、かつ実際にワーカーが店舗や事業所に行って働くという領域に目をつけたのは鋭い。そうした現場仕事について瞬時に企業とワーカーをマッチングするサービスというのは“ありそうでなかった”分野だった。現在はタイミー経由の仕事は物流・飲食・小売が大半だが、法律上の縛りでアルバイトや派遣の利用が難しい製造業・建設業などでも使えるようになれば、タイミーは飛躍的に成長するだろう」(人材業界関係者)
副業で利用する人も?
そんなタイミーは上場に際し「事業計画及び成長可能性に関する事項」を公表。そのなかでワーカーの属性として40代が23%、50代が19%、60代が5%と、40代以上が47%とほぼ半数を占めている点について、SNS上で以下のようにさまざまな反応が寄せられている。
<氷河期世代は未だに救われないなぁ>
<氷河期達の居場所…ついに見つけられたんだね>
<氷河期世代がまだ難民してるのか…>
人材業界関係者はいう。
「タイミーの利用者をみると20代は全体の28%となっており、40代と大きく変わらないが、40代の人たちがかつて20代だった就職氷河期の頃とは様変わりし、今は多くの業界で人手不足になっていることも影響して20代は正社員になりやすい環境なので、20代にはわざわざ短期のアルバイトをする必要がない人が多いのかもしれない。興味深いのは、タイミーのワーカーの職業属性として『正社員』が21%もいる点だ。副業を推進・許容する企業が増えるなか、働き方改革で残業代を稼げなくなった会社員が、空いた時間で小遣い稼ぎのためにタイミーを使ってバイトをしているというケースも一定数あるのかもしれない」
(文=Business Journal編集部)