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LINEヤフー、フルリモート廃止は自然な経営判断…組織の生産性と自己責任

文=Business Journal編集部、協力=中野仁/AnityA代表
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LINEヤフーの公式サイトより

 在宅ワークの回数制限を撤廃してフルリモートワークを導入していたLINEヤフーが今月、フルリモートを廃止すると発表。旧ヤフーは2020年9月にX(旧Twitter)の人材採用アカウント上で「明日からヤフーは仕事環境をオンラインに引っ越します。この先コロナが終息しても、ずっとリモートワーク」と謳うなど、これまでフルリモートで働けることをアピールして採用を行ってきたという経緯もあり、大きな議論を呼んでいる。LINEヤフーに限らずリモートワークを縮小する動きが企業で広まっているが、背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 世界の従業員について週5日出社を義務付けることを発表したアマゾン・ドット・コム、週3日出社を義務付けるFacebook運営会社のメタをはじめ米国の大手IT企業が先行するかたちで、リモートワークの縮小が広まっている。それに追随するかたちで日本企業でも同様の動きが広まっている。

 そうしたなか、日本を代表するテック企業のLINEヤフーがフルリモートを廃止するというニュースは、大きな議論を呼んでいる。旧ヤフーは2020年にリモートワークの回数制限を撤廃し、23年に旧LINEと合併して以降もフルリモートワーク制を敷いてきた。来年(2025年)4月からは出社日を設定し、事業部門の社員には原則週1回、それ以外の開発部門やコーポレート部門などの部門の社員には原則月1回の出社を義務付ける。

 国内メガベンチャーとしては、メルカリは7月から週2日の出社を推奨する取り組みを開始。コロナが落ちいた2021年以降の動きをみてみると、楽天グループは原則週4日の出社、サイバーエージェントは週3日出社・週2日リモート、GMOインターネットグループは出社を原則としている。一方、富士通やNTTグループのように、リモートワークを常態とする既存大手IT企業もある。

文脈と人脈という2つのコンテキスト

 LINEヤフーが大きなハレーションが起きることを覚悟した上でフルリモート廃止に転換する理由は何であると考えられるか。企業のシステム企画・支援を手掛ける株式会社AnityA代表の中野仁氏はいう。

「フルリモートによって、出社してメンバー同士が直接コンタクトを取る機会が減ると、文脈と人脈という2つのコンテキストを把握することが困難になりがちですね。社内でどこの誰がどんな情報を持っていて何をどこまで決められるのか。わからないことを誰に質問すればよいのかが分かりにくくなり、また、気軽に相談しにくくもなります。米国企業のようにジョブディスクリプションが細かく明確に決まっていても仕事を進めるのが厳しいという話を聞きますし、日本企業は更に難しいかもしれせん。直接その場に居ないとわからない情報というのは意外と多かったりするのですよね。

 加えて、勤務形態がフルリモートに変わっても出社形態のときと同じレベルのパフォーマンスを出し続けられる人材は職種、能力を考慮すると限定されるのではないでしょうか。リモートと出社と混在状態になるとなおさら情報格差が発生しやすい。滅多に会わない遠くの人より、近くに居て顔がわかって会話をしたことがある人のほうに情報は流れやすいのは仕方ない事かもしれません。

 このほか、フルリモートは若手人材の育成という面でも対面での育成と比べると難しい点もあります。もちろん職種や個人の能力にもよりますが、一定の水準で自立自走できるまでは上司やシニアと共に行動して育成されるほうが基礎はしっかりするのだと思います。それが距離が離れたことにより、育成の難易度は上がっている可能性はあるかもしれません。シニア側はパワハラ等の気を使わないといけない事もありますが、個人の感情や距離感の取り方を図る為の情報が少なくなりがちですよね。

 こうしたことから、経営がフルリモートを維持することで組織全体の生産性が落ちているのではとないかと判断される可能性はあると思います。もちろんフルリモートでもできる会社はあると思いますが、比較的リモートを推進してきたテクノロジー系企業が出社に少しづつ回帰しているところから、それは簡単な事ではなかったのだと思います。

 企業の経営陣は売上や利益はもちろんですが、社員一人当たりどれくらいの利益を出すのかという指標を持って追っていたりします。生産性ですね。リモートから出社に切り戻す会社は各種指標を満たし続けることが難しいと判断したのかもしれません。

 このほか、あくまで可能性の話として、リモートワークを縮小させている米国テック企業がそうであるように、人員がダブつき始めたため人員余剰の解消という目的もあるかもしれません。ちなみに日本の名の通ったテクノロジー系企業のなかには、表立っては発表や話題になっていないもののリモートワークを縮小させて出社に戻している企業が増えています」

人を雇用するのもシステムを導入するのも同じ支出、投資

 働き手側が意識すべきことは何か。

「企業の経営にとっては人を雇用するのもシステムを導入するのも同じ支出、投資として2つを並列にとらえています。善し悪しの問題ではなく、財務的にはそうなるというお話です。これまでは『システムはコストが高い。人を雇ったほうが安い』として導入を見送っていたシステムのコストが大きく下がり、そこに充てていた人材の人件費が上昇するとします。そうすると、人を雇用する代わりにシステムを導入するのは自然な経営判断になります。たとえば、生成AIのChatGPTやLLM(大規模言語モデル)の性能が飛躍的に向上して、それなりに実用性がある形になり始めました。エンジニアやコンサル、ホワイトカラー全般に影響を与えていくでしょう。システムもSaaS等により日進月歩で進んでき、価格競争をしています。こちらは業務運用するオペレーターに影響がでるかもしれません。

 ファミリーレストランでは人の代わりに猫型配膳ロボットが配膳をする光景は当たり前になりましたが、AIとロボティクスが現実的な形でサービス化されていくかもしれません。人件費が高騰する一方でシステムの導入コストがどんどん低下していけば、同じような現象が広い領域で進行することはありうると思います。

 そうなると、人手不足で高い採用費、人件費、労務管理費を支払い、徐々に社会保険料の負担が増える。しかし、解雇規制が厳しく雇用調整が難しい。それなら人を雇用する代わりに、こうしたシステムを導入するというのは流れとして起こり得る事だと思います。

 そして、テック企業にとって大きなコストはシステム費用、人件費、広告宣伝費になります。広告宣伝費は調整できるとして、迅速かつ大幅にサーバ代やシステム利用料金を削減することが難しいとなれば、余剰人員の削減に手をつけることになります。明言はできずとも、ここ数年のコロナバブルというような好景気に過剰に雇用し過ぎて、膨張しすぎた組織のスリム化したいという企業もいるかもしれません。

 踏み絵としてフルリモートなど既存の権利、福利厚生を縮小してやんわりとレイオフをするという可能性もありうるかと。もちろんこの手のレイオフは過去の事例をみると、やめて欲しくない人から辞めやすく、そうでもない人が残るという事態になりがちであったりします。法務的なリスクもあるでしょう。ただ、恐らく普通のコーポレート機能をもっている会社ならば事前に検討して織り込んで動くのだろうと思います。

 労使のパワーバランスはシーソーゲームであり、力関係の上下が一定期間の間隔で入れ替わり続けるという現実をもう一度再確認したほうがよいかなと。1990年代中頃からリーマンショックを挟んで約20年ほど続いた就職氷河期時代は景気が悪く、労働者より企業のほうが立場が圧倒的に強い時期が続きました。ここ10年ほどの景気回復に人手不足が重なったことで、それが逆転していました。そのためアベノミクスからコロナが落ち着くまでの数年は、職種、業界によってはスキルが未熟な人材でも良い待遇で比較的容易に雇用されており、そうした人材が戦力にならずにマネージャー層が消耗する弊害も目立ち始めています。そして、2023年あたりから需要が落ち着いて、業界や職種、職位によってはダブつきが見られるようになった気がします。

 人手不足が深刻だったエンジニアの世界では、人材でも高い報酬で事業会社や大手コンサルティング会社の重要なポジションに採用されてミスマッチが起きるような話を見かけたりします。SIerやSESではエンジニアという肩書なのだけど、殆ど素人に近いジュニアが結構な金額でアサインされてきて問題になったりしています。

 結果として、人が足りないのではなく、自分で判断して仕事をやりきる人が足りないのだという結論に至る頃合いなのではないでしょうか。

 企業はいつ何時でも制度を大きく変更させる可能性があるということです。『今の勤務先の制度がこの先もずっと変わらない』という事を大前提にし、勤務先企業を過度に期待してしまうと、大きな変更が生じた際に受け身が取れなくなってしまうリスクがあります。結局、損をするのは自分なので、そこは自己責任ということになります。

 企業の経営陣は、企業の存続と利益の最大化、顧客や株主への責任を負っています。目的が達成できれば、それが人によるものであってもシステムによるものであってもより最適なほうを選択します。方針は変えるし、最悪レイオフも選択肢として持ちます。相手がどのような目的で、どのようなルールに従って振る舞うかを踏まえて動く必要があります。

 また、企業で会社員をしていると、どうしても待遇や労働環境など自分の事に意識が行きがちですが、顧客は誰なのか、自分の報酬は何に対して支払われているのを考えることも重要ではないかと思います。自分の仕事がどれだけの価値を生み出しているか。それは労働市場でどれくらいの価値を持つことができるか。その価値が本当に必要とされるならば自分で自分の居場所を選択できるし、そうでなければそれなりの制限を受け入れるしかない。例えば、フルリモートでも本当に必要とされるならば、それを元に条件交渉をして受け入れ居場所を探す事になります。

 企業によるリモートワーク縮小を、どう評価すべきかということを議論する上では、そういう視点も重要ではないでしょうか」(中野氏)

(文=Business Journal編集部、協力=中野仁/AnityA代表)

中野仁/AnityA代表

中野仁/AnityA代表

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。
AnityAの公式サイト

Twitter:@Jin_AnityA

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