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東京美容外科・麻生院長が反論「美容外科医に高い倫理観なんか」…解剖研修問題

文=Business Journal編集部、協力=新見正則/医師、新見正則医院院長
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日本美容外科学会のリリース(公式サイトより)

 大手美容クリニック・東京美容外科の沖縄院院長で医師の黒田あいみ氏が、グアムで行われた解剖研修に参加した際のものとして、遺体の前でピースする自身の姿を収めた写真や、「頭部がたくさん並んでるよ(スマイルマーク)」という文言とともに複数の遺体が並んだ写真、「いざfresh cadaver(新鮮なご遺体)解剖しに行きます!!」という文言とともに自身の笑顔を収めた写真などをブログに投稿した問題。日本美容外科学会(JSAPS)は今月26日、「医療従事者としての倫理観を著しく欠いたものであり、断じて容認できるものではありません」とする声明文を発表。これに対し東京美容外科の統括院長を務める麻生泰氏はX(旧Twitter)上に「美容外科医師に高い倫理観なんかあったら、アクアフィリングやヒアルロン酸を胸にぶち込んだりせんやろ」「俺がメス置けば終わるんかよ」などと投稿し(現在は削除済)、議論を呼んでいる。黒田氏は解剖研修に参加した理由について「解剖の知識とスキルの向上のため」「医師としてより向上し、患者様の満足度をよりあげるため」と説明しているが、医療現場で働く現役医師が解剖研修に参加する意義とは何か。また、日本美容外科学会が言及する「医師の倫理観」とは具体的に何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 問題となっていたのは、黒田氏が今月にブログに投稿した記事だった。黒田氏は謝罪コメントで「写真に写ってしまったご遺体は 全てモザイクをかけていた つもりでおりましたが 一部出来ていないところがありました」「より多くの医師に知ってもらうことで より安全に、より多くの患者様の満足度をあげることができる、と思い、投稿しました」と説明したが、批判の広まりを受けて東京美容外科は黒田氏の解任を発表。統括院長である麻生泰氏はX上で「動機は善で、彼女に他意はありません」「炎上でトカゲの尻尾切りのように解雇する事はできないと判断しました」と説明した。

解剖研修の実態

 大学の医学部では解剖実習が行われるが、現役の医師がこうした解剖研修に参加する意義は何なのか。慶應義塾大学病院や帝京大学病院などで数多くの手術に携わった経験を持つ医師の新見正則氏はいう。

「日本では医師になった後の解剖研修は基本的に行えないため、海外で実施される解剖研修に参加するかたちになります。たとえば外科医の場合でいえば、日々、生きた患者さんの身体の中を診ているため、こうした解剖研修に参加する人というのは多くはないと思います」

 黒田氏が参加した解剖研修は米国グアムで行われたものだが、美容外科医のドラゴン細井氏は自身のYouTubeチャンネル上で「昨今の海外でのご献体を使った(解剖)実習に関しては、イベント要素が強くなっていた感はあったんです。バケーションも兼ねてとか、という印象。ハワイとかグアムとかもそうなんですけど、旅行と実習が一緒にかけ合わさったり、少し楽しいみたいなイメージは、本来あるべきではないんですけど、そういうイメージがつきつつあるプロモーションになっていたと思います」と説明している。

日本美容外科学会「高い倫理観をもって行動するよう」

 騒動を受けて日本美容外科学会は以下内容の声明を発表。

「医療従事者としての倫理観を著しく欠いたものであり、断じて容認できるものではありません」

「美容外科医としてその肩書を用いる以上、社会的責任を伴う行動が求められることを強調したいと思います」

「今後も全ての美容外科医が高い倫理観をもって行動するよう、学会として努力を続けて参ります」

 声明文では医療従事者としての倫理観に繰り返し言及されているが、医師に求められる倫理観とは何なのか。前出・新見氏はいう。

「大学医学部のなかには、医療倫理に関する授業を設けているところと、ないところがあります。かつて医学部のカリキュラムは1~2年次は医学と直接的な関係がない一般教養を学び、3年次から医学の勉強をするかたちでしたが、昨今では医師国家試験が難化していることも影響してか、1年次からみっちり医学の勉強をするかたちになっているところが多いです。18歳ぐらいの時点で一定の倫理観を持っている人もいれば、そうではない人もいるでしょうし、社会人が持つべき倫理観を持たないまま医師になる人もいるかもしれません。

 今回の件でいえば、医師、もしくは美容外科医は倫理観が欠けているのかどうかという議論は正しくはなく、単に個人の資質の問題でしょう。どのような職業の人であれ、多くの人はご遺体の前で笑顔で記念写真の撮影をするという行為はしないでしょう。ですので、医師としての倫理観がどうかという問題ではありません。

 また、今回の件と直接的な関係はありませんが、美容外科をめぐっては近年、注目されているある変化がみられます。一般的に医師は医師国家試験の合格後に2年間、臨床研修に従事し、その後の数年間は専攻医(旧・後期研修医)として働いた後に専門医資格を取得しますが、近年では臨床研修を終えるとすぐに美容クリニックに勤務する人が増えており、『直美(ちょくび)』といわれています。その数は毎年2%ほどといわれていますが、これは結構大きな数値です。一般的に医療の現場で前期臨床研修を終了していなければ、臨床業務は行えないということになっており、美容外科は形成外科に含まれるため、これまでは形成外科医が専門領域の一つとして行うものでした。直美が増えている理由は一概にはいえませんが、現在、医師の賃金は一般的な会社員の1.5~2倍ほどで、大企業社員のほうが高いケースは少なくなく、大学病院や一般的な病院の勤務医よりも賃金が高いからという理由ですぐに美容クリニックに勤める人もいるかもしれません。ちなみに、大学病院の経験豊富なベテラン医師が大学を辞めて美容クリニックに勤務するというケースも出てきています」

技術力に定評がある東京美容外科

 日本美容外科学会の声明をめぐっては、東京美容外科の統括院長である麻生泰氏がX上で前述のとおり反論を展開している点も議論を呼んでいる。東京美容外科は、著名医師で医療法人社団東美会理事長の麻生氏が2004年に設立し、国内・海外(ドバイ)に計約20の医院を展開。AGAスキンクリニックやメンズライフクリニックなど計8つのブランドを運営する麻生美容クリニックグループの中核となるクリニックだ。「熟練医師のみが施術執刀」「開業以来20年医療事故0」「麻酔科医常駐」を特徴とし、「美容外科医師として10年以上の経験を持つ医師、或いは、形成外科学会から認定を受けた医師、または、東京美容外科で3年以上の経験を積んだ医師のみが メスを握ることを許されています」(公式サイトより)としている。

「東京美容外科は、100以上の医院を展開する湘南美容クリニックや東京中央美容外科(TCB)と比べると規模は小さいものの、技術力は高いことで知られています。また、麻生氏は高い技術力を持っていることに加えて、その人徳からも、多くの美容外科医から尊敬される存在でもあります。今回の黒田氏の行動は美容外科医からみても許されるべきことではありませんが、だからといって簡単に解雇して済ませるということは麻生氏であればしないというのは理解できます」(美容外科医)

国は美容クリニックへの医師集中を規制

 医師の偏在により地方や一部の診療科で医師不足が深刻化するなか、その原因の一つとされるのが、美容クリニックへの医師流出だ。一般的に、医師は医師国家試験の合格後2年間は臨床研修の研修医として、その後3~5年間は専攻医(旧・後期研修医)として働いた後に専門医資格を取得する。医師免許を取得する者の人数は年間約9000人いるが、近年ではその数%、約200人が臨床研修を終えた直後に専攻医を経ずに美容クリニックなどで働くとみられている。こうした動きを受けて、外科全般・産婦人科・小児科などで医師不足が顕著になりつつある一方、美容外科の診療所は23年時点で対20年比44%増の2016施設に増加し、美容外科の診療所に勤務する医師の数は22年時点で対16年比2.4倍の約1200人に増えたという(厚生労働省の調査による)。

 医学部で医師を育成するためには多額の税金が投入されていることもあり、こうした動きに歯止めをかけるべきだという声も強い。国は美容クリニックへの医師集中を規制する施策として、公的保険適用対象の診療に最低5年程度、従事しなければ、開業したクリニックに保険診療の提供をさせないという内容や、開業医が多い地域で開業する医師に在宅医療や救急対応などを担うよう都道府県が要請し、応じない場合は勧告を行うという内容を検討している。

(文=Business Journal編集部、協力=新見正則/医師、新見正則医院院長)

新見正則/医師、新見正則医院院長

新見正則/医師、新見正則医院院長

外科専門医 /消化器病専門医 /消化器外科専門医 /消化器内視鏡専門医
慶應義塾大学医学部卒業後、外科医として研鑽を積む。大学病院や関連病院で診療にあたるほか、英・オックスフォード大学にて博士課程を修了。
新見正則医院 公式サイト

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