そこで今回、愛宕神社にカードリーダーを設置した背景を聞いたところ、意外な真実が見えてきた。
●神聖な祈祷料もカードで払う時代
愛宕神社の歴史は、1603(慶長8)年、徳川家康が江戸に幕府を開いた時期にまで遡る。家康の命により防火の神様として祀られ、1610年に庚戊本社をはじめ、末社仁王門、坂下総門、別当所等将軍家の寄進により建立された。それから約5世紀後、愛宕神社の歴史に大きな転換点が訪れた。それは、お賽銭やおみくじ、お守り、祈祷料などをカード払いできないかという相談を参拝客から受けるようになったことがきっかけだ。
神社・仏閣の商品(おみくじやお守り、破魔矢、お札等)やサービス(祈祷、挙式等)は現金払いが一般的。これは神社が建立された時代から変わらない慣習であり、愛宕神社もその慣習に従ってきた。むしろ、電子マネーやクレジットカードなど非現金化することには消極的だった。
しかし東京都港区という場所柄、周囲の商業施設や店舗に寄った後に訪れる参拝客も多く、そうした参拝客からすると、電子決済に対応していれば、もっと気軽に神社・仏閣の商品を購入したり、サービスを受けることができ、さらにいえば、決済した金額でポイントも獲得できる。神聖な祈祷料もカードでお願いしたいと考える人が増えていても不思議ではない。
●お賽銭の電子マネー奉納は、楽天の提案
参拝客がカード払いを求めることについて愛宕神社が悩んでいることは、創業当時から同神社の氏子であった楽天の三木谷浩史会長兼社長の耳にも入った。そこで楽天は2010年頃から、試験的に電子マネーの決済システムを神社の商品・サービスの支払いに導入するよう提案していたそうだ。そして今年1月6日、初詣のお賽銭を電子マネーで奉納できるように、カードリーダーを設置することとなった。1日限定であったとはいえ、テレビをはじめさまざまなメディアから注目され、世間に話題を提供することになった。
愛宕神社では、楽天Edyカードによるお賽銭の件数や金額は、まだ電子決済の入金報告が届いていないので、明らかではないそうだが、概ね参拝客からは好評価を得たという。カードリーダーが撤去された後も、「電子マネーでお賽銭の奉納できないの?」という質問をする参拝客が非常に多かったという。お賽銭や祈祷といった分野でも、電子決済は消費者に受け入れられる可能性が高い、ということが証明された。
●電子決済を普及させる背景には金融機関の合理化
13年7月13日付日本経済新聞記事『電子決済市場、5年で20兆円拡大へ』によると、クレジットカードや電子マネーなどの電子決済の市場規模は、11年度の43兆円から16年度には66兆円に達すると予測している。最終消費支出に占める割合は3割程度にもなるという。
さらに、この動きを加速させている意外な事実を、今回の取材で愛宕神社から聞くことができた。
それは、銀行等の金融機関では、硬貨の取り扱いを避けようとする動きがあるということだ。以前は、どの金融機関でも窓口に硬貨を自動的に計数する機械を置き、大量の硬貨を持ち込んでも入金や振り込み手続きができた。しかし今では、そのように硬貨を計数するサービスを積極的に行う金融機関は少なくなった。メガバンクでは、計数サービスはせずに両替として手数料を請求するケースもあるようだ。