他の出席者は大手新聞社や通信社の経済部の記者やデスクで、手ぶらで来ている人がほとんどであった。だが、机上には、最低でも数万円はするワイン・オーパスワンがずらりと並ぶ。他の出席者らはオーパスワンのグラスを片手に、「最近、(東電)広報の対応が悪い」「もう少し記事になるような話はないのか」とご馳走になりながらも注文をつける姿をみて、ものすごく“新鮮”な気持ちになったのを覚えている。
確かに食事もお酒も美味しかったが、後ろめたさを感じた筆者は翌週、少し高めのワインを送った。すると、数日後にはその約3倍の値段はするワインが宅急便で届き、「個人でこれ以上の抵抗は無理だ。ヤクザと一緒で一度関係を持ったら逃れられない」と、自分自身を納得させた。
●政治家のパーティー券を購入
その後、07年に新潟県中越沖地震が起きて東電柏崎刈羽原発の使用が停止。再稼働の働きかけを行っている内に自民党から民主党への政権交代が起き、「お願いルート」に変化が生じた。
筆者のところに久しぶりに東電総務部から連絡が来たのは、その頃だ。「新潟県選出の某民主党議員を紹介してほしい」と、名指しで仲介を頼まれ、過去の経緯があるので、私はその議員と東電の会食をセットすることにした。
了承がとれた旨を連絡すると、指定されたのは、銀座の超高級フレンチ「アピシウス」。豪奢なエントランスに絵画とシャンデリアが眩しい個室に、ひとり最低3万円はするコース料理がしずしずと運ばれてくる。「紹介のお礼に、今夜はいいワインを用意しました」と、出てきたのは、「ラ・ターシュ」(推定価格10万円)。もう楽しもうと腹を括って飲み食いを始めた筆者の耳に、驚くべき会話が飛び込んできた。
「パーティー券ではお世話になりました」と、頭を下げる民主党議員に対して、「いえいえ、あの程度しかお手伝いできずに」と、総務担当者が応じているではないか。「了承がとれました」と伝えた翌日には、その議員の部屋を訪れ、近くパーティーがあると知った彼らは、20万円以内でパーティー券を購入していたのだった。
その手腕と素晴らしい料理の味わいに感動していると、さらに耳を疑う会話は続くのだった。「今度、柏崎刈羽原発の視察にご家族の方とも一緒にどうぞ。ホテルも食事もこちらで手配します」という東電サイドの申し出に対して、その民主党議員は「よろしいんですか? いやあ、申し訳ないなあ」と喜んで受けただけでなく、「1日も早く再稼働できるよう、お力になれれば」と、頼まれてもいないのに自ら再稼働の約束をしていたのだった。
その後、11年に東日本大震災が起き、筆者と東電総務部が接点を持つことはなくなったが、今回の甘利氏のパーティー券問題は恐らく電力会社と政界との関係を明らかにする「始まり」にすぎないだろう。与野党を問わず、政界工作に励んでいた彼らの手口をほんの少しだが垣間見た筆者からすれば、今回発覚した甘利事件は単なる「入り口」にすぎない。
しかし、東電が政官界だけでなく、マスコミにも抜かりなく手を打っていたこともまた事実だ。東電問題が電力会社と政界との関係を暴く端緒になるかどうか、メディアの姿勢が問われている。
(文=水谷茉莉花/フリーライター)