(「日経ビジネス」<日経BP社/4月9日号>)
6月27日の東電株主総会をめぐり、「総括原価方式」の問題点を指摘する報道が数多く見られたが、まさにこの方式こそが、東電の企業体質を象徴的に示しており、それが一般企業といかにかけ離れた不合理なものかを端的に表している。
東電は同社HP上で、わざわざ「総括原価方式における事業報酬に関わる報道について」と題する告知を出し、「総括原価方式は、電力の安定供給のために経産省に認められた権利」ともいわんばかりの態度で、どうしてもこの方式を死守したい模様だ。だが、そもそも安定供給が崩れたいま、説得力に乏しい。
今回はおさらいの意味もかねて、この「総括原価方式」のカラクリと問題点をいま一度整理することを通じて、電力事業のあるべき姿を考えてみよう。
同じ民間企業でも異なる、「利益」の概念
企業の売価、原価、利益の関係を表す次の2つの計算式を見ていただきたい。一見すると大変シンプルで同じようにみえるが、2つの計算式には、その意味するところに決定的な違いがある。
(1)競争市場の場合:売価ー原価=利益
・売価:市場(相場)で決まるもの。
・原価:改善努力で下げるもの。
・利益:原価低減で儲けを出すもの。
※この場合、企業は少しでも多くの利益を出そうと、原価低減(コスト削減)に必死に努力する。
(2)独占市場の場合:売価=原価+利益
・売価:市場で決まるのでなく、原価と利益を単純に加算するもの。
・原価:下げるものでなく、計算するもの。
・利益:原価に上乗せするもの。
※この場合、利益はあらかじめ決められていて原価に上乗せするだけだから、企業は原価低減(コスト削減)の努力をしない。
トヨタ生産方式をはじめ、日本の多くの企業の考え方は、基本的に(1)である。企業が利益を出すには、売上高を増やすか、原価を下げるかどちらかしかない。売上高増大はその時々の市場動向に左右されやすいが、原価低減はムダをとことん省き、改善を地道に積み重ねれば、利益を出すことができる。原価低減による利益創出は、企業の改善努力によるものだ。