ジャパンディスプレイは新規上場に伴う公募で、1億4000万株(国内で7700万株、海外で6300万株)の新株を発行する。需要動向に応じて1800万株を追加で売り出す。すでに上場時の株価は1株900円に決定しており、時価総額は約5574億円になる見通しだ。13年7月のサントリー食品インターナショナル(同約9000億円)以来の大型上場となる。
株式市場でディスプレイジャパンが調達する金額は約1422億円。スマートフォン(スマホ)やタブレット向けに需要が伸びている中小型液晶パネルを生産している主力工場(千葉県茂原市)などの設備増強に充てる。加えて、自動車向け液晶需要の拡大もにらんで、車載用液晶の設備投資も計画している。
産業革新機構などの株主は、持ち株の半分程度を売却。株式公開で数千億円を得ることになる。資本金は352億7400万円で、出資比率は革新機構が84.2%、日立、東芝、ソニーがそれぞれ4.2%。資本金と資本準備金を合わせて約2000億円を出資した革新機構は持ち株の半分を売却して、全額を回収する。今後、残りの株を売れば、すべて売却益となる。
経産省主導の再編
ジャパンディスプレイは、当初計画より2年前倒ししてスピード上場する。この上場が成功すれば、中国や韓国のライバル企業の台頭で打撃を受けてきた日本の製造業が、官製再編の処方箋で立ち直る唯一の事例となる。
液晶テレビで国内家電メーカーは、サムスン電子、LGエレクトロニクスなどの韓国勢や低価格が売りの中国勢に価格競争力で負けてしまい、世界シェアや売り上げを大きく落とした。その結果、ソニー、パナソニック、シャープの薄型テレビ御三家は大幅赤字に陥った。もっと苦しいのが液晶パネルメーカーだ。大型液晶パネルの2大用途はテレビとパソコンだが、両方が不振だからだ。
こうした環境下で、経済産業省が主導し、ジャパンディスプレイは12年4月、日立、東芝、ソニーの赤字続きの中小型液晶パネル事業が統合して設立された。スマホやタブレットに使われる中小型では十分に戦えると判断して統合し、革新機構は新会社に2000億円を出資した。
革新機構には出資を失敗させないために、参考とすべきケーススタディがあった。NEC、日立、三菱電機のDRAM(半導体メモリ)事業を統合したエルピーダメモリ、同じ3社のシステムLSI(大規模集積回路)事業などを集約したルネサスエレクトロニクスが相次いで誕生したが、国内唯一のDRAMメーカーであるエルピーダは経営破綻し、13年に米マイクロン・テクノロジーに買収された。一方、自動車用マイコンで世界シェアの4割を持つルネサス社も赤字が続き、13年には革新機構が筆頭株主になり、トヨタ自動車など取引先8社が出資する事態となっている。
エルピーダ、ルネサス両社の経営不振の原因は、母体企業出身者のたすき掛けトップ人事が続き、拠点削減で各社の利害が対立してもめたためといわれている。母体企業の影響力を排除できなかったのだ。
革新機構は、これを反面教師とした。ジャパンディスプレイは出資する3社としがらみのない大塚周一氏を社長に起用した。大塚氏は、米テキサス・インスツルメンツ、ソニーに勤めたあと、ジャパンディスプレイ社長就任直前はエルピーダのCOO(最高執行責任者)を務めていた。ソニーの勤務経験があるが、ソニーから送り込まれたわけではない。大塚氏は社内取締役を2人だけにしたが、従業員数5700名規模の企業としては異例の少なさだ。
ジャパンディスプレイの意思決定は寄り合い所帯の会社と比べて格段に速くなり、即断即決で経営を行っている海外勢と互角に渡り合えるようになった。加えて、スマホ時代の到来が追い風になった。ジャパンディスプレイは米アップルのiPhone 5s/5c向けに小型液晶を供給しており、アップル向けの売り上げが全体の3分1近くを占めている。
14年3月期の売上高は前年比36.3%増の6234億円、営業利益は同17倍の304億円(営業利益率4.9%)、当期純利益は同9.4倍の366億円を見込んでいる。調査会社NPDディスプレイサーチによると、ジャパンディスプレイの13年の中小型液晶市場でのシェアは、世界全体で17%(金額ベース)とトップだった。
残された頭痛の種
再編を主導した経済産業省が抱える残る頭痛の種は、中小型液晶市場で世界2位(15%)のシェアを持つシャープだ。ジャパンディスプレイ発足時にシャープにも参画を呼びかけたが、自社技術に自信があるシャープは拒否した。
シャープは従来型液晶パネルに比べ消費電力が8割以上少ないIGZO(イグゾー)を「再建の切り札」(高橋興三社長)としたが、自社製のスマホやタブレットの売り上げが伸び悩む上に外販も振るわない。背景には、スマホメーカーがジャパンディスプレイに優先的に発注するようになったからだ。シャープの液晶技術の苦戦が続いた場合、経産省がどのような動きを見せるのか、今後の動向から目が離せない。
(文=編集部)