柵山氏は電力システム部門の出身で、若い頃から電力部門のエース候補として、20代で米ウエスチングハウスとの技術者交換留学に社内でただひとり選ばれた経験も持つ。経営企画を担当した後、山西氏の出身母体であるパワー半導体部門の立て直しを任されていた。アナリストは、「このときから次期社長は確定していたのでは。市況変動の激しい半導体部門を最後に任せることで、経営者としての幅を持たせたかったのだろう」と解説する。
理系の技術者出身であることも歴代社長と同じ。新社長の誕生に伴い、現社長が会長に就くのも恒例。過去の人事との唯一の違いは、山西氏まで5代続いた京大出身ではなく、東大出身である点だ。
●競合他社とは一線を画す人事
今回の三菱電機の「変わらぬ」人事は、ここ最近の同業他社の人事と比べると対照的だ。日立製作所が最高経営責任者(CEO)・最高執行責任者(COO)制を導入して2トップ体制を敷き、東芝が副会長職を70年ぶりに復活させて会長、副会長、社長の3トップ体制を敷くなど、大手各社が「変わる」人事を打ち出したことは記憶に新しい。
三菱電機が変わらぬ路線を踏襲した背景には、安定した業務内容がある。電力システムや業務用空調、昇降機などが主力であり、日立や東芝など競合他社に比べると手がける事業に華やかさはないが、安定感は抜群だ。2014年3月期の営業利益は前期比45%増の2200億円になる見通しで、営業利益率は5.6%に達する。これは日立の同期見通しの営業利益率5.4%を上回る。
●問われる「優等生」の真価
社長交代会見で柵山氏は、「もう一段上のレベルを目指す」と繰り返した。これは同席した山西氏も口にした言葉だ。現在の業績の安定ぶりは、他社に先駆けて不採算事業に見切りをつけ、堅実経営を歩んだ結果だ。半導体事業への大型投資の失敗などで2000年代初頭には業績不振に苦しんでいたが、日立やNECなどに比べて、世界首位を争うような事業まで育てられていなかったがために、各社が処理に苦しんだ半導体事業を早々に「損切り」できた。だが、アナリストは「もう一段上を目指すならば、守りから攻めの経営に転換する必要がある」と指摘する。
実際、安全運転ぶりはM&Aの規模をみても明白だ。日立や東芝が数百億円規模の買収に果敢に乗り出す一方、三菱電機の近年の「最大の買収」といえば、10年にドイツの半導体企業を数十億円で買収した程度である。電機業界の「優等生」が大勝負に出る局面は訪れるのか、そのときこそ優等生の真価が問われることになる。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)