サントリーホールディングス(HD)の佐治信忠社長は2013年12月期連結決算発表の席上、注目されていた自らの去就について、当面、社長を続投する考えを示した。昨年2月の会見で「早く譲りたいという心境は変わりない。(社長としての会見は)来年のこの場が最後」と述べ、本年中にも社長を交代する意向を表明していた。後任候補については、「グローバルに活躍できるエネルギーが必要」と強調。創業家にはこだわらないが「創業家に優秀な後継者がいれば(創業家でも)いい」と述べた。株式を上場するサントリー食品インターナショナル(SBF)社長で、持ち株会社サントリーHDの取締役である鳥井信宏氏を念頭に置いた発言と受け止められた。
ところが佐治氏は13年8月2日付日本経済新聞のインタビューで「(持ち株会社の)次期社長に創業一族以外から選ぶ可能性がある」と言及したことが波紋を広げた。サントリーグループの中核企業で清涼飲料を手掛けるSBFは、昨年7月3日に東京証券取引所1部に上場した。佐治氏は同インタビューで「次の世代となる(佐治氏のいとこの子の)信宏は上場企業の社長に(当面)とどまる。もちろん(信宏氏が持ち株会社の社長に成長するまで)待つ選択肢もあるが、今のままでは、誰か一族以外が(ワンポイントで)なる可能性が高い」と創業家にこだわらない考えを示した。こうした背景もあって、佐治氏の後任は創業家か創業家以外かに注目が集まっていたが、佐治氏は続投を宣言した。
サントリーHDは1月に米酒造大手のビームを総額160億ドル(1兆6500億円)で買収すると発表しており、佐治氏は「それ(社長交代)どころではなくなった。(買収手続きが進行中で)いまは買収を成功させることしか頭にない」と経営環境が変わったことを強調した。ビームはバーボンウィスキー「ジムビーム」「メーカーズマーク」などを展開し、蒸留酒(スピリッツ)の売り上げで世界4位。佐治氏はビームの買収を決断した理由を「国内は人口減少で市場が縮小する。ビームとともに一気にグローバル展開できる」からだとした。蒸留酒で世界10位のサントリーHDは、ビーム買収により第3位に浮上する見通しだ。
この買収について、市場からは「割高な買い物」との指摘が出ていたが、「10年、20年、30年後のグローバルな成長という時間と将来の夢を買った。決して高い買い物ではない」と佐治氏は反論している。
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佐治氏が社長を続投するのは、ビームの買収手続きだけが理由なのだろうか。
サントリーHDの14年12月期の売上高は、前年比8.8%増の2兆2200億円、営業利益は同15.4%増の1460億円を予想している。この数字にビームの分は含まれておらず、6月をメドに買収手続きが完了すれば、あらためて業績予想に織り込む。
ビームの直近の売上高は円換算で3300億円。単純合計すると2兆5000億円を超える見通し。ビール国内最大手のキリンホールディングス(13年12月期の売り上げは2兆2545億円)を上回り、ビール・飲料業界で日本一になる。