サントリーHDは海外売上高5000億円を目指していたが、13年12月期に5142億円と目標を達成した。佐治氏は、ビームのブランドを活用してインドやブラジル、ロシア、中国などでの新興国市場の開拓を進め「海外売上高を早期に1兆円にしたい」と語る。サントリーHDの13年12月期の連結売上高は、同10.2%増の2兆402億円と初の2兆円台となった。茶飲料の「伊右衛門」や缶コーヒーの「ボス」が好調だった。ビール市場は振るわなかったが「ザ・プレミアム・モルツ」が過去最高の販売数量となった。
最終利益は同5.3倍の1955億円と過去最高を更新。子会社のSBFが東証に上場し、持ち株を売却したことで、特別利益を計上したという特殊要因もある。
●注目の次期社長人事
そして今後の焦点は、次期社長は誰かという点だ。6月にビームの買収手続きを済ませ、14年12月期決算の終了後に社長を交代する可能性が高い。前出の日経新聞インタビューで佐治氏は、「会社の上場で調達した資金を含め1兆円程度の戦略投資を想定している。今考えているのは洋酒部門のM&Aだ」と語っていた。1兆円程度のM&Aを実行できる人物が後継者にふさわしいということにもなる。そしてこの発言通り、1兆6500億円でビームを買収した。
サントリーHDには代表権を持つ取締役が3人いる。佐治氏、鳥井信吾副社長と同族以外の青山繁弘副社長である。鳥井信吾氏は創業者・信治郎氏の三男・道夫氏の息子で信忠氏の従弟にあたる。
青山氏は69年に神戸大学経営学部を卒業してサントリーに入社した生え抜きで、マーケティング部門、宣伝部門担当役員、酒類カンパニー社長を歴任。持ち株会社体制に移行した09年2月、サントリーHDの副社長に就いた。経営企画、財務経理、人材開発などのコーポーレート部門を担当し、サントリーグループのM&Aとグローバル化の先頭に立ってきた。09年から10年にかけて“世紀の大合併”といわれたサントリーHDとキリンHDの経営統合交渉が行われた際、サントリーHD側は青山氏をトップとし、部長クラスを中心に15名でM&Aチームを編成、交渉窓口になった。しかし、統合後のサントリーHD創業家の資産管理会社の持ち株比率をめぐり意見が対立し、統合計画は白紙に戻った。
青山氏は佐治氏の右腕としてM&Aに辣腕を振るってきただけに、「佐治会長・青山社長」ラインでM&A戦略を推進するとの見方が強い。サントリーグループは創業100年を越え、会社が大きくなっても、ずっと同族経営を貫いてきた。創業者の鳥井信治郎氏の息子たちのうち、長男の吉太郎氏が早世したため、鳥井家の親戚である佐治家の養子になっていた次男の佐治敬三氏が家業を継いだ。佐治信忠社長は敬三氏の長男。吉太郎氏の孫が鳥井信宏氏である。
鳥井家と佐治家は本家と分家の関係にある。持ち株会社の佐治信忠氏から鳥井信宏氏への社長交代が実現すれば、分家から本家への大政奉還となる。同族以外から社長を擁立する場合、本家がすんなり受け入れるのか。佐治氏が社長続投を宣言した背景には、創業家一族の複雑なお家事情も垣間見えてくる。
(文=編集部)