日本がこの分野のけん引役となる最大のポイントは、先ごろ発行された生活支援ロボットの国際標準化機構(ISO)の安全規格で日本の提案が採用されたこと。つまり、日本の基準がそのまま世界基準になったのである。具体的には、産業技術の幅広い分野において数多くの技術開発を行っている独立行政法人・産業技術総合研究所(産総研)が経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「生活支援ロボット実用化プロジェクト」で得られた成果が、採用された。国を挙げての施策が通ったことになる。
日本では世界を見渡しても高齢化の進行度合いが速く、介護生活支援分野でのロボット技術の活用が期待されている。リハビリや介護を受けている人への支援や、介護従事者の負担低減など、その需要は多岐にわたる。しかし安全性の確保などが課題となり、導入や販売が進んでいないのが実情だったが、今回のISOの発行により普及が進む公算が大きくなっている。
ベンチャー企業が突破口
ISOに日本基準が採用された背景には、日本のベンチャー企業の努力によるところも大きい。例えば筑波大学発のベンチャーであるサイバーダインは、世界初のサイボーグ型ロボットスーツ「HAL」(ハル)を開発した。HALは身体機能を改善補助できるロボットで、装着することにより身体の不自由な人をアシストしたり、いつもより大きな力を出したりできる。
また、脳や神経への学習を促すこともできる。HALは、装着者の脳が「歩きたい」と考えることで出力される電気信号を読み取り、装着者の意思通りに筋肉を動かすアシストをする。さらにこの一連の流れを脳が学習することで、リハビリにも有効になり、最終的にHALなしでも歩くことができる可能性もある。
サイバーダインは、ドイツで公的労災保険機関を事業パートナーとし、脊髄損傷や脳卒中を含む脳・神経・筋疾患の患者に対する機能改善治療を目的とした会社を設立。HALを利用した機能改善治療が行なわれ、保険の適用も受けられる。HALはEU全域で医療機器として流通・販売することが可能になるなど、海外で先行して認められてきた。
今回のISOではHALがいち早く認証されたことはいうまでもない。サイバーダインは、小さな会社ながら、日本を世界基準にした立役者といえる。同社の14年3月期売上高予想は4億6900万円、経常損益は6億4600万円の赤字予想。今年3月26日には東京証券取引所のマザーズ市場への上場を果たし、今後、人気化するとみられている。
大手企業も始動
2月のISOの安全規格発行を受けて、パナソニックやダイフクが規格を取得。パナソニックはベッドと車椅子を合わせた機能を持つロボットで、介護を受ける人がベッドから離れる際の活動を支援する。
搬送システム大手のダイフクは、安全に高速で動く無人搬送車を管理するシステムで取得。このほか、金型の菊池製作所が介護装具の出荷を開始し、ソフトウェアのセックもロボット技術の開発を行っている。サイバーダインと資本業務提携しているのは大和ハウスで、ロボットスーツ事業に関して総代理店契約を結び、注力していく方針である。
ロボットといえばファナックや安川電機など、自動車製造分野で日本が強みを持っている。介護や福祉ロボットの市場はまだこれからだが、日本がけん引するとの期待感が高まっている。
(文=和島英樹/経済ジャーナリスト)