深刻化する介護問題~負担増がサラリーマンを直撃、介護うつ、虐待の危険も
ここにきて介護が特集のテーマになったのは、政府が介護保険法を改正し、社会保障と税制の抜本改革に着手したからだ。2015年4月から、一定以上の所得がある高齢者(年金収入280万円以上)を対象に、利用者負担を1割から2割に引き上げる方針となった。
15年は、いわゆる「団塊の世代」(1947~1949年に生まれた人)が65歳以上となる年。高齢者人口が3000万人を超える時代を迎えるために、政府は対策を取り始めたわけだ。
さらに25年には、これらの世代が大挙して75歳を迎える。後期高齢者(75歳以上)は介護が必要な要介護(要支援1~要介護5)の認定率が29%と、前期高齢者の4%から格段に跳ね上がる。12年における後期高齢者は1511万人。これが25年には2179万人にまで膨らむ。全人口に占める比率も18%と、5人に1人近くまで上昇する見通し。これが「2025年問題」といわれている。
介護保険制度が抜本的に改正される
このままでは「高齢者の介護を社会全体で支え合う」介護保険制度が破たんしてしまうのだ。そこで「効率化と重点化」を目的として要支援者への介護予防サービスを市区町村に移すなどの改革を行うのだ。この介護保険改正に迫っているのが「東洋経済」の特集第1章『介護保険改正で増える負担』だ。同記事によると「消費税率引き上げによる新規財源が投入されるのは、年金・医療・介護・少子化対策の社会保障4分野だ。このうち25年にかけ、給付費用が最も膨れ上がるのは、実は2.3倍増となる介護の分野である。保険料の負担も、今後は医療以上に介護費用の増加が目立ち、20年になると、75歳以上の負担する保険料は、医療より介護のほうが大きくなる見通しだ」という。
負担は高所得のサラリーマンにも及ぶ。
「たとえば40~64歳が加入する会社員の介護保険。今は加入者数に応じて負担する仕組みになっているが、これを所得と連動した『総報酬制』にすることが目下検討されている。組合管掌健康保険(組合健保)に加盟する大企業のサラリーマンは、1カ月の介護保険料(労使含む)が現状の4463円から、総報酬割の導入で5058円に膨らむ。まずは余裕のある者から負担してもらおうという手順である」(同記事)
高齢化が深刻になるのは都市部
政府が描くのは、住み慣れた地域で最期まで過ごす“地域包括ケア”だ。自宅に代わる新たな介護の住まいとして、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の整備を政府も積極的に支援する。1戸当たり最大100万円の補助金を出すなどの政策誘導により、サ高住登録された物件は、今年10月までに全国で13万戸を突破している。「東洋経済」の特集第2章『どれを選ぶか?老後の住まい』では、「価格と居住性で見る47都道府県別サ高住物件ランキング」を掲載している。
「東洋経済」は「介護の問題点」を中心にしたマクロ的な特集を組んでいる。一方で「ダイヤモンド」は「介護の入門」視点のミクロ的な特集になっている。ダイヤモンドは実際に自分の親の介護をすることになったらどうするかという入門書の視点だ。特集Part1『自宅で看る介護術』では、突然介護が必要になった場合にひとりで抱え込まず、家族、親戚、親しい友人など総力戦で在宅介護を行おう、とする。特集Part3『介護の悩みを解消』では、親の介護に心身ともに疲れ果てた息子や娘が「介護うつ」になったり、虐待に走るケースが増えているという。4人に1人といわれる「介護うつ」にならないためには、仕事を辞めないことが鉄則だ。現在は年間約10万人が離職しているが、経済的に厳しくなる上に1日中介護と向き合わざるを得なくなるためだ。
今後、高齢化が深刻になるのは都市部だ。東京は10年には後期高齢者は123万人だったが、25年には198万人になる。20年に東京五輪が開催されるが、その5年後には東京は介護が必要な高齢者ばかりの都市になるかもしれない。高齢化の加速に備えた都市づくりが課題になりそうだ。
(文=松井克明/CFP)