ブラック企業にまつわる話は多く聞かれるが、それらの企業の多くは、新興企業や中小企業であるケースが多い。企業としての人員管理体制や内部告発制度などの不備はもちろん、従業員を犠牲にした利益追求などに原因がある場合が多い。
一方で歴史のある大企業では、それなりの人事管理や従業員制度が整備されていることから、問題が表面化したり、外部へ流出するケースは珍しい。
ところが昨秋、一流企業として知られる三井住友海上火災保険で、パワハラ問題に関連した内部告発文がマスコミ各社に寄せられ、話題を呼んだ。この告発文は三井住友海上の監督官庁でもある金融庁にも出されたが、その後の展開について話は聞こえてこない。
告発文は、衝撃的な出だしで始まる。「三井住友海上・駿河台ビル新館で、自殺があった。43歳の営業課長が会議室で首吊り自殺をした。発見者は警備員であり、会社はかん口令を敷いている」というものだ。
その自殺の原因を、この告発文では“社内でのパワハラ”と推論している。このパワハラの背景にある、同社の複雑さを理解していただくため、まず企業の概要を説明したい。
同社は、2001年10月に三井海上火災保険と住友海上火災保険が合併して誕生した。いまだに、社内では“三井派”と“住友派”が派閥抗争を続けている。そんな状況の中で、この悲劇は生まれた。
三井住友海上内では、2社の合併後も旧三井財閥、旧住友財閥の主要企業との取引は合併相手側には渡さない。旧社の派閥意識を抱えたままの体制となっている。
豪腕上司の下で孤立無援だった
そんな中で非常に珍しいケースだが、住友海上の出身者が三井物産などの旧三井財閥の主要企業を得意先とする重要部署の営業課長となった。上司も部下も三井海上出身者で、“孤立無援”の状況だったのだ。加えて、所属する部の部長がパワハラ上司だったという。
部長は、部内の女性社員が直接自分に口をきくことを許さず、机の引き出しの開閉音がうるさいといって、部下全員に引き出しにスポンジを装着することを強要し、ホチキスの音が煩わしいといって、自分の在席時にはホチキスの使用を禁じていた。さらにこの部長は、朝礼などで「自分は社長を目指しており、邪魔者は断固除外する」などと公言していたようだ。
このような人物だから、それまでにも何度かパワハラで問題になっているが、良い営業成績を上げていることや、上司に取り入るのが非常にうまいことから、なんのお咎めもなく切り抜けてきた。
それが、今回のケースでも同様だったようだ。
この告発文を書いた人物は、「今後は、会社と遺族との訴訟になっていくだろう」としているが、現時点で訴訟が起こされた事実は確認できていない。なんらかのかたちで遺族は泣き寝入りさせられたのであろうか。
安全・安心を商売にしている一流保険会社で、このようなことが起こっているというのは驚きである上に、その事実を会社が隠ぺいしているのであれば、都合の悪いことは隠すという企業体質なのだと思わざるを得ない。企業や消費者は、そんな保険会社と安心して契約を結ぶことなど無理だろう。三井住友海上には、事態の解明とその公表が求められている。
(文=鷲尾香一)