ただ、この大胆な戦略が奏功したかは現時点では不透明だ。まずSiC製はコストの課題がある。SiCはシリコンに比べ材料価格が数倍高い。現時点では最終製品の価格が高い鉄道など、一部の大型製品にのみ採用されているのが実情だ。普及の本命と見られる自動車への搭載は、早くても15年以降。三菱や東芝などは、既存のシリコン製の性能向上も想定より進んでいるため、両にらみでの製品展開を進める。既存のパワー半導体で高シェアを握っており、SiCへの切り換えを必要以上に加速する必要がないというのが本音だ。そうなると、厳しいのは既存品では後発のローム。SiC製の普及自体が当初の想定より後ろ倒しになっており、ロームはSiC事業の黒字化への見込みが立たない。
また、競合メーカーの社員は「本当にロームはSiC製半導体を生産できているのか」と首をひねる。「SiC製ではなくシリコン製の話」と前置きしながらも、極秘情報をこうささやく。
「ロームが某自動車メーカーに供給しているパワー半導体は、実はうちの会社がつくっている」
パワー半導体は、いくつかの部品を組み合わせたモジュールで客先に納入するケースも多い。ロームは他社に半導体生産を委託して、自社で組み立てだけを手がけているというわけだ。
「ロームにしてみれば、SiC製はもちろん、シリコン製でも事業を拡大したいが後発組。納入実績をひとつでも多くつくりたいので、なりふりかまっていられないのだろう」(前出の競合メーカー社員)
話の真偽は公式には確認できなかったが、ロームの技術への疑念が、市場ではくすぶり続けていることだけは間違いない。
美人社員満載の冊子を、毎年マスコミに配布する「悪趣味」
創業者で長く独裁体制を敷いた佐藤氏は、マスコミ嫌いで有名だったが、現在、澤村諭社長は積極的に取材にも応じる。業績は苦戦するが「ロームは良い方向に変わった」との指摘は内外からも少なくない。ただ、一方で前社長から受け継いだ悪しき習慣もある。それが、「ローマンティック」だ。