投資信託の販売では、商品に内在するリスクについて「目論見書」を用いて顧客に説明する必要があり、2004年12月からグラフを用いて視覚的にわかりやすいものに改善した。だが、ややもすると定性的な説明に終始しがちなことから、今回さらに目論見書のビジュアル化を進める。具体的には、リスクとリターンの定量的な把握や比較が可能となるよう、投資信託の過去の基準価額の変動をほかの代表的な投資資産、TOPIXなどのベンチマーク(基準)と比較するための図表等を用いた「投資リスクに関する説明」を記載項目に追加する。
例えば、販売する投資信託の過去のトラックレコードを一番左に置いて、それと比較する観点から、TOPIXなどの日本株、あるいは先進国の株価の変動幅やこれまでの最大上昇時・最大下落時の変動幅のトラックレコードと比較しながら、定量的にリスクを説明するといったことを記載項目に追加するもの。
また、販売手数料に関しても、手数料の対価として提供する具体的な役務に関する説明を記載項目に追加するなど充実を図る。
さらに、顧客に書面で交付する運用報告書についても、昨年6月からトータルの損益の把握が容易になるよう「トータルリターン通知制度」が導入されたが、今回、運用状況のうち極めて重要な情報を記載する「交付運用報告書」を新設する方針である。
こうした投信の販売見直しの背景には、加熱する投信の販売競争がある。特に今年1月からスタートしたNISA(小額投資非課税制度)に伴い、投信種類が一層多様化し、購入する顧客の裾野も拡大している。また、販売する金融機関にとっても「総資金利ザヤがゼロに近い中、高い手数料収入が得られる投信は主力商品となっている」(メガバンク幹部)という。
●三井住友信託銀行で回転売買か
しかし、その一方で、投信をめぐる悩ましい問題も浮上している。元本保証のない投信に対する顧客の理解が、商品の多様化に追いついていないことに起因するトラブルの急増である。
12年春には、売れ筋商品であった高利回りのブラジルレアル建て投信など、外貨建て投信の運用利回りが悪化し、投信購入者のうち9割を超える顧客が含み損を抱えたのは記憶に新しい。
金融機関は四半期に1回のペースで、投資信託の取引残高報告書を顧客に郵送するが、苦情の洪水という惨憺たる状況だった。この事態を重く見た金融庁は、リスクが高く仕組みがわかりにくい投信を経験の浅い投資家が購入しないようにするため、毎月支払われる配当金の原資を運用益に限定したり、「通貨選択型投信」などで使われるデリバティブ(金融派生商品)の利用を制限するよう指導を行った。