●韓国、中国から人気に火がつく
そんなチェキが海外でいきなり脚光を浴びた。
07年に韓国のテレビドラマでチェキが小道具として偶然使われ、それが韓国女性の間で話題になったのをきっかけに、韓国でチェキ人気が沸騰した。この時、チェキに飛びついたのは、ファッションに敏感な10~20代女性。「好きなタレントが使っている商品を自分も使いたいと、服やファンシーグッズを買うのと同じ感覚でチェキを購入していた。そこにはインスタントカメラを買うという意識は感じられなかった」(富士フイルム関係者)という。
09年になると、今度は中国でもチェキ人気が沸騰。有名ファッションモデルの一人がブログで「私もチェキを使っている」と書き、それが話題になったのがきっかけだった。
こうして韓国と中国を中心にチェキの販売は回復し、10年度は約87万台、11年度は約127万台と過去最高を上回り、13年度は約230万台まで伸び、今年度は300万台販売の見込みまで来ている。同社の今年度デジカメ販売計画200万台を50%も上回る勢いだ。
なぜ反日感情の激しい韓国と中国で、日本製チェキの人気が起こったのか。
業界関係者は「いくつもの偶然が重なり、インスタントカメラ固有の価値が認識された結果だ」と、次のように説明する。
インスタントカメラは、デジカメより粒子が粗めでストロボの届く範囲も限られる。したがって誰が撮影しても、霧がかかったような絵画っぽい写真になる。またデジカメのコピーや一般フィルムカメラのような焼き増しができないので、どの写真も「世界でただ1枚」。しかもその写真は絵画のような雰囲気まで帯びている。チェキはそんな希少価値を生み出してくれる。このため韓国では結婚、誕生日などの記念日に「世界でただ1枚の写真」として贈り物に使う習慣が定着。また、パーティーなどでは撮った写真をその場で交換したり、余白にメッセージを書き合ったりして、パーティーの雰囲気を盛り上げるツールにもなっている。
一方、中国ではチェキは「高級ファンシーグッズ」のイメージが強く、家電販売店ではなく高級化粧品店や高級ファンシーショップで売られている。このため男性から女性へのプレゼント需要が大きい。男性が富裕層の証しとして宝飾品などと同じ感覚でチェキを女性に贈り、流行に敏感な女性がそれを使うという需要構造だ。業界関係者は「さすがにこれには反日感情も入り込む余地がない」と顔を緩める。
●デジカメ世代の必須アイテムに
さらに日本国内でも、10~20代女性の間でチェキ人気が復活しつつある。フィルムカメラを知らない女子高生、女子大生などの「デジカメ世代」にとって、ファインダーを初めて覗いた時の驚きと新鮮さ、フィルム写真ならではの独特の風合いに加え、撮影した写真がその場でプリントされるなど、デジカメでは味わえない魅力が彼女たちを虜にしているようだ。このため「結婚披露宴、卒業謝恩会、その他各種パーティーでチェキはデジカメ世代の必携アイテムになりつつある」(業界関係者)。