大幅増益も主力スマホが赤字に
7月31日の同決算発表でソニーは、コンシューマーゲーム機「PS4」の販売や、映画事業が好調であったこと、さらに不動産の売却益などによって、286億円の増益を記録したと発表。不動産売却が業績の牽引要因になったとはいえ、前年同期比で大幅な増益を記録したのは、同社にとって大きなプラス材料であるはずだ。
にもかかわらず、ソニーは15年3月期の赤字業績予想を据え置くなど、依然として厳しい状況にあることをうかがわせている。その大きな要因は、同社が重点事業として力を入れているスマホの販売不振にある。
「Xperia」ブランドで知られる、子会社ソニーモバイルコミュニケーションズが手掛けるスマホ事業は、今年4月に14年度の販売目標を5000万台に設定していた。だが今期は、そのスマホの販売不振でモバイル事業が27億円の赤字に転落。販売目標も4300万台と大幅に下方修正するなど、苦戦している様子をうかがわせる。
昨年のスマホ売り上げ台数が3910万台であったことを考えると、4300万台に下げたといっても、販売が伸びるとの予測に違いはない。だが当初目標より700万台も下方修正するというのは、大きなインパクトがある出来事だ。しかしなぜソニーは、スマホの出荷台数を大きく読み違えてしまったのだろうか。
新興国に向けた拡販戦略が裏目に
下方修正の大きな要因は、ラインアップを急速に拡大させたことにあるようだ。Xperiaシリーズは従来ハイエンドモデルが主体であり、日本や欧州といった先進国を中心に人気を獲得していた。一方で、ミドルクラスのモデルが主体となる中国などの新興国や、Xperiaのブランド力が弱い米国などでは、販売を伸ばせずにいた。
そこでソニーは、Xperiaの販売拡大をするべく、ミドルクラスのモデルを主体にラインアップを拡大。新興国向けの市場開拓に力を入れることで、販売を急速に拡大させる計画であった。昨年の出荷台数よりも1000万台以上も多い、5000万台という目標を掲げたのも、ミドルクラスのラインアップ拡大による販売拡大を大きく見込んだものといえるだろう。
先進国でスマホがある程度普及したことから、スマホ販売の主体は、新興国に移ったといわれている。それゆえ各社とも、新興国のニーズに応えるミドル・ローエンドクラスのスマホ開発に力を入れており、ソニーがこうした戦略をとるのは、ある意味順当といえよう。
だが結果的に見ると、そのラインアップ拡大戦略が裏目に出たようだ。ハイエンドモデルの販売は現在も堅調に推移しており、日本でも「Xperia Z2」「Xperia ZL2」などの販売が好調だ。だが一方で、新興国攻略に向けて投入したラインアップは不振となっているようで、その結果を受けて販売台数の下方修正に至ったようだ。
ソニーを苦しめる中国メーカーの急速な台頭
一見すると今回の下方修正は、ソニーの不調を際立たせるようにも見えるが、不振となっているのはソニーだけではない。スマホで世界市場首位のシェアを持つサムスン電子も14年4~6月期の決算が前年比26%の減益となっており、その要因もやはり、スマホ販売の伸び悩みにあるとされている。
サムスンはハイエンドモデルからローエンドモデルまで、幅広い種類のスマホを手掛けるメーカーだが、強みを持つのはやはりハイエンドモデルだ。ハイエンドモデルの急激な成長が望めない一方で、ミドル・ローエンドモデルの販売が伸び悩んでいることが、減益の大きな要因となっているわけだ。
では一体、ソニーやサムスンの代わりに、新興国向けのミドル・ローエンドのモデルで販売を伸ばしているのはどこなのか。
それは中国メーカーだ。自国に非常に大きな市場を持つのに加え、スマホの急速なコモディティ化によって一定の品質を持つモデルを低価格で提供できるようになったことから、中国メーカーが世界のスマホ市場で急速にシェアを拡大しているのだ。実際、米調査会社Strategy Analyticsの調査では、14年第2四半期(4~6月)のスマホ市場シェアトップ上位5位に、中国のファーウェイ、レノボといった大手メーカーに加え、新興勢力のシャオミー(Xiaomi)が新たにランクイン。中国メーカーがいかにシェアを急拡大させているかが、よくわかるだろう。
中国メーカーが躍進した結果、従来のスマホメーカーが新興国でシェアを落とし、不振を招いている。そうしたことからソニーは、スマホの製品ラインアップや販売国・地域を見直し、再びハイエンドモデルを主体とした戦略に切り替えて立て直しを図るようだ。新興国の需要拡大の波に乗れなかったことが、今後ソニーのスマホ事業、ひいてはソニー全体の事業立て直しにどの程度影響してくるか、注目されるところだ。
(文=佐野正弘/ITライター)