上記のように、万引き犯から損害賠償を受けるためには、小売店側に多大な労力とコストが発生するため、多くの小売店が「泣き寝入り」やそれに伴う「廃業」を強いられているのが実状です。こうした実情が「犯人の顔写真公開」に多くの賛成意見が集まる要因になっていると思われますが、例えば犯人の顔社員をネット上に公開すると、その個人情報が半永久的に残ってしまいます。これはその後の犯人の更生を妨げ、再犯に向けた環境を整備しているともいえます。
万引き防止に対する有効な手立ては、万引きをしようとしている人への店員の「声掛け」です。監視カメラがここまで普及している日本において、万引きの認知件数が高止まりを見せているという現実は、監視カメラでの撮影に基づき警察に相談して対応をするという事後対応では不十分であることを意味しています。ただし現在、多くの小売店で人手不足が課題となっており、万引き対応に十分な店員の労力を割けないのが実状です。
●今後の広がりが予想される顔認識システム
最後に、日本ではなかなか利用の有効性が議論されない顔認識(顔認証)システムについて、いくつかの事例を紹介します。
『顔認識技術、逃亡犯をネパールで追い詰める』(8月19日付「WIRED」)
『アルゼンチンのティグレ市、NECの顔認証技術で街中監視』(8月19日付「クラウドWatch」)
『万引き犯の巧妙な手口を検証!犯人を見抜く方法とは!? 』(8月22日付「今日のココ調」)
これら顔認証の取り組みは、すでに日本でも空港や商業施設において、防犯、顧客管理購買行動調査等の目的で始まっています。日本は2020年の東京オリンピック開催を控え、外国人観光客年間2000万人の受け入れを目標としており、今後さらに利用シーンや運用ルールが整理され、活用されていくことが予想されます。特に、防犯の分野での活用は本人同意や法的制約について明確な国の基準がなく、それぞれ提供・運営主体による自主的な運用基準で徐々に広がりつつある技術であるため、混乱を招くケースもあります。
前述の通り、万引き被害に遭った企業は、損害を自己責任で補填していかなければなりません。犯人の顔写真公開によって個々人の犯罪を公表していくのか、店内の防犯カメラを増設し認知件数の増加を目指すのか、もしくは顔認証システム等の新たな防犯システムを導入して再犯を抑止していくのかなど、今後も議論が必要です。
(文=荒川大/株式会社ENNA代表取締役)
●荒川大(あらかわ・ひろし):株式会社ENNA代表取締役。人事コンサル会社、人材紹介会社にて営業、ITセキュリティコンサル会社にて人事・総務に従事。07年に株式会社ENNAを設立し、上場企業のガバナンス体制構築及びリスクマネジメント体制構築等を支援。