事業再編によるイオンとウエルシアの相乗効果を疑問視する流通業界関係者も多い。スーパーとドラッグストアとでは物流ロットや売り方が大きく異なり、業界関係者は「両者の業態は似ているが、店舗オペレーションの共通性はほとんどない」と指摘する。
またウエルシアは経営統合で業界首位に浮上するとはいえ、その地位は安定したものではない。ドラッグストア業界は圧倒的なトップがいない群雄割拠の状態であり、現在首位のマツモシキヨシから7位のココカラファインまで年間売上高3000~4000億円台の混戦状態が続いている。首位と2位の売上高差はわずか475億円。経営統合でウエルシアが単純合計で首位になったとしても、マツキヨとは189億円程度の差しかない。その上、4社単純合計の営業利益は166億円で大手の中でも中位規模。収益力ではマツキヨの2244億円の足元にも及ばない。
市場環境も厳しい。日本チェーンドラッグストア協会の調べでは、13年度の市場規模は6兆97億円。流通業界関係者は「これを根拠に岡田社長は22日の記者会見で『市場は20年には8兆円規模に成長する』との予測を披露していた。だが、13年度の市場伸び率は前年度比1.2%で過去最低。市場はすでに成熟期に入っている」と指摘する。
もちろんこうしたドラッグストア業界の実態はイオンも先刻承知のはずだが、なぜ今回事業再編の花火を打ち上げたのだろうか。その背景には、熾烈化するセブン&アイとの競争がある。
●イオンが目指す米国型ドラッグストア事業
15年2月期の連結売上高予想はイオンの7兆円に対してセブン&アイは6兆1300億円と、その差は8700億円。「スーパー事業で苦戦するイオンを、コンビニ事業が好調なセブンが追い上げており、岡田社長の内心は穏やかではないはず」と、流通業界関係者はいう。
イオンがセブン&アイの追い上げを止めるためには、セブン&アイのコンビニ、セブン-イレブンの快走を止めなければならない。だが「セブン-イレブンのライバルのローソンにはもはやその力はなく、ましてやイオン子会社でコンビニ業界5位のミニストップにも到底無理な相談。そこでイオンが“ストップ・セブン-イレブン”の秘策として温めていたのがドラッグストア事業による攻勢」と、流通系シンクタンク関係者は次のように説明する。
市場規模が年間10兆円(13年)に近付いたコンビニ市場は、今や国内小売業の主流業態だが、米国ではドラッグストアがその地位を占めている。日本のドラッグストアと違い、医薬品はもとより化粧品、ベビー用品、子供用玩具などの品揃えが豊富なのが特徴だ。「イメージ的には日本のドラッグストアと100円ショップをミックスしたような業態」(流通業界関係者)といわれる。その米国ドラッグストア業界で首位のウォルグリーンは全米に8500店を展開、売上高は7兆円を超える。