二つ目はLDカラオケの進化形として97年に発売した、世界初の家庭用50インチ型プラズマテレビだ。プラズマパネルの自社工場を建設するなど累計1000億円超をプラズマテレビ事業に投入、一時は薄型テレビ市場のシェアをほぼ独占する勢いを示した。ところが、こちらもその後の技術革新の方向を見誤り、大画面・低価格に成功した液晶テレビに市場を奪われた。09年にはプラズマテレビ事業からの撤退を余儀なくされ、巨額の負債だけが残った。
●自動車業界では周回遅れの状態
パイオニアは9月16日に新事業方針を発表、その中で再成長の道筋を示した。
小谷進社長は「パイオニアは『音響』から生まれた会社だが」と前置きした上で、祖業を継承した家庭用AV・DJ機器事業を今後も存続してゆくためには継続的な投資が必要だが、現在の体力でこれらの事業に投資を続けることはできないと語った。特にホームエレクトロニクス部門は、DJ機器が稼ぐ利益を家庭用AV機器の赤字補填に使っているのが実情だと明かし、「当社が再成長を図るためには断腸の思いでホームエレクトロニクス部門を切り離し、伸び代のあるカーエレクトロニクス部門に経営資源を集中するのが最善の選択と判断した」と、カーエレ機器専業を目指す理由を説明した。
さらに今後の方針としては、主力となるカーナビとカーオーディオに頼り切るのではなく、クラウド型情報サービスと各種カーエレ機器・周辺機器を組み合わせたさまざまな「コネクテッドカー機器」を開発、展開してゆくという。そのために不足している技術は先行メーカーとの提携や買収も含め、スピード感を上げて強化するし、今後の成長が見込まれる新興国市場対策としてブラジルやインドネシアに新拠点を設ける。こうした取り組みで、カーエレ機器市場で「総合インフォテインメント(情報と娯楽の融合サービス)のリーディングカンパニーを目指す」と強調した。
再成長の道筋として示した、一見大胆な戦略転換に、成算はあるのだろうか。
パイオニアが戦略商品と位置付けているコネクテッドカー機器については、13年にNTTドコモと資本提携し、ドコモの通信網を通じて走行情報を収集するなどの体制をすでに整備している。現在の個人を中心とした先進ユーザー向けに加え、今後はタクシー配車向けやトラック運行管理向けなど法人需要を開拓する考えだ。
また、iPhoneで操作できる米アップルの車載システム、CarPlay対応機も業界に先駆けて投入したほか、視線を前方に保ったままナビ情報を見られるヘッドアップディスプレイなど、カーエレ機器新領域の製品開発も進めている。
小谷社長は記者会見で「自動車のキーサプライヤーとして、なくてはならない存在になりたい」と抱負を述べたが、自動車業界担当の証券アナリストは「大手自動車メーカーがこれからのウリにしようとしている自動運転システムなどの先進運転技術開発競争では周回遅れの状態で、早く先頭集団に追いつかないと自動車業界の中核に食い込めない」と厳しい見方を示した。
大手投資銀行のアナリストも「パイオニアのカーエレ機器は市販向け商品が大半で、従来は自動車メーカーとの取引がほとんどなかった。今後、自動車のキーサプライヤーになるためには、自動車メーカーとの提携をいかにして確立するかが課題」と指摘する。
パイオニアの伝統は技術革新にある。一時の成功に溺れ、気がついた時には技術革新競争に敗れてきた過去の教訓を生かせるか。同社再成長のカギは、そこにありそうだ。
(文=福井晋/フリーライター)