業界関係者は「日立が大幅なダンピング価格を提示したらしい」と推測するが、東芝が敗退した背景には、過去のシステム開発において「巨額の賠償を迫られたこと」も響いているとの見方がある。
電力市場は2015年4月から段階的に自由化され、その第一弾として3月には各電力会社による電力を全国規模で融通する調整組織「広域的運営推進機関」(仮称)が発足する。この運営機関が使うコンピューターシステムは、今後の電力改革において中核システムとなるため、入札の行方が注目されていた。
下馬評が最も高かったのは東芝である。東芝はこれまでも経済産業省が発注する数多くのシステムを受注してきた実績があり、電力関係のシステム設計でも強みを発揮してきたからだ。
入札には日本IBMやNTTデータなどの大手システム業者も参加したが、競争入札で実際に落札したのは日立だった。日立にはこれまで目立った官庁システムの落札事例がなかったため「産業界には衝撃が走った」(業界関係者)という。
「霞が関では日立の広域的運営推進機関の受注について、徹底した安値受注が功を奏したとの見方が広がっています。東芝側が約40億円を提示したのに対し、日立側は20億円以下の超安値で落札したというのです。東芝は『ダンピングの疑義がある』と異議を申し立てましたが、公正取引委員会の調査でも、違法な安値受注とは認定されていません。日立は中核部分以外の周辺システムに既存設計を活用する手法を取り入れて安値を実現させたと説明しているようです」(同)
ダンピングを強調して日立側の違法性を訴えた東芝だが、価格競争には持ち込めない事情があったという。
「東芝は06年に特許庁のシステム開発を安値で受注したのですが、数回にわたってシステム設計をやり直し、結局、完成できないまま12年に開発を中止し、開発費に利息を加えて60億円近く返納することになった苦い過去があるのです。最初の設計見積もりの精度を下げることで安値を実現させたツケでした」(同)
電機メーカーがシステム開発を安値で受注する場合は、その後の仕様変更やメンテナンスなどを受注することで採算をとろうとするのが一般的だ。だが東芝はあまりに初期設計を安く済ませることで安値を実現したため、メンテナンスどころか、発注官庁に巨額違約金を支払うハメになってしまったというのだ。このときのトラウマが東芝には残っているという。
このため業界関係者の間では、今回の日立のサプライズ受注について、「日立もシステムが実際に完成するまでは、真にビジネスが成功したかどうかは評価できない」と冷ややかに観察する向きもある。
(文=編集部)