iPhoneの出荷量は1カ月に1000万台規模。1機種の生産量が数万台~数10万台規模の国内メーカーとはケタが違う。最新の部品を採用するタイミングもアップルは圧倒的に早い。最先端の超小型部品を使いこなすために必要な精密な機械もアップル向けに最優先で納入される。
世界最高水準の技術を誇る日本の最先端部品を大量に、かつ他社より安く抱え込む。世界最大のハイテク企業であるアップルによる日本支配は着々と進んでいる。
今年6月、ゴールドマン・サックス証券(GS)は、日本における電子部品業界の成長は、その半分近くがアップルに支えられる見通しだとするレポートを出した。
GSのアナリストがカバーする電子部品業界19社のうち、11社のアップル向け売上高の推計に基づいた試算だ。この11社は2012年度の全社売上高の合計が、前年度比で5000億円弱の増収になるとみられており、そのうち約45%がアップルからの注文による増収寄与分となる、と分析した。
アップルの快走により、アップル向けの部品を作る電子部品メーカーの工場はフル操業状態が続き、“アップル特需”に沸いている。だか、このことは、アップル1社に業界全体の業績が左右されるリスクが高まっていることの裏返しである。
そんな中で、今年8月には日本で初めてアップル倒産が起きた。本欄でも取り上げた小型モーターが主力の電子部品メーカー、シコー(神奈川県大和市、東証マザーズ上場)だ。同社は世界に先駆けてスマートフォンの小型カメラに使う自動焦点用モーターを開発、iPhoneに採用された。
11年、iPhone4の大量発注に備えて、小型モーターを製造する中国・上海工場にクリーンルームを新設、組み立てに使う大量の顕微鏡を購入し、数多くの労働者を確保した。
しかし、シコーにアップルから大量発注が来ることはなかった。それは、シコーは為替デリバティブに手を出していたことが原因だ。同社はこれにより、11年には毎月5000万円の現金(キャッシュ)が消えていったという。円安を前提とした為替デリバティブだったから、円高がモロに逆風になった。
この情報をキャッチしたアップルは、シコーの財務内容に問題ありとして取引を打ち切り、同様の製品を作っているアルプス電気にスパッと切り替えた。
シコーは8月10日、東京地裁に民事再生手続き開始を申し立てた。負債総額は85億945万円だった。アップルに製品が採用されたことで高成長を誇ったシコーの経営破綻は、チャンスとリスクが紙一重であることを如実に示した。電子部品メーカーにとって明日はわが身なのである。