関係者によると、売り上げ不振が続いている木村屋は、この3年間の営業利益が赤字で、メインバンクのりそな銀行から抜本的な再建策を求められている。同社は株式非上場のため、120億円の売上高のみが公表されており、他の数字は不明だが、関係者は「累積赤字は数十億円を下らない」と明かす。そのため、工場を集約したり、本社を西新宿から有明に移転するなどの経費削減策をとってきた。
そして、さらなる手段として、一昨年末からは40代社員ら数十人の希望退職に踏み切っている。希望退職する場合、一般的には退職金に100万円単位の上乗せがあるが、関係者は「給料1カ月分と、テンプスタッフの再就職斡旋費用ぐらいしか出なかった」と語る。実際に退職した社員は「会社からは『今後は上乗せできなくなるかもしれない』と言われた」と証言する。
しかし、こういった荒療治を施しても、いまだに売上高よりも経費のほうが多く、単年度収支で赤字は解消しない。そこで、りそなが提案したのが直営店事業からの撤退というアイデアだった。対象は、銀座本店を除く日本橋高島屋店や横浜そごう店など、東京、神奈川、埼玉の3都県にある28店舗だ。直営店はスーパーなどでの販売と違い、現場に社員を送るためコストがかかる。だからこそ、りそなは「直営店をなくせば、固定費を大きく削ることができる」と提案したのだ。
これに対して、木村屋の経営陣は抵抗しているようだ。関係者は「直営店から撤退すれば『経営の危ない企業』というレッテルを貼られ、原材料メーカーが取引をやめてしまうのが業界の常識です。経営陣はそれを恐れています」と語る。
関係者の証言によると、経営陣の一部は代替案として「トップの交代」をりそなに提示しているという。「現在の木村光伯社長は創業家出身の7代目ですが、いとこに木村周一郎氏がいます。周一郎氏は、親族との確執から、独立してフランスパンのブーランジェリーエリックカイザージャポンを起業して成功しました。一部の経営陣は、その周一郎氏をトップに据えたいようです。ただ、周一郎氏のフランスパン以外の手腕は未知数であり、必ずしも特効薬になるとは限りません」(関係者)
一方、退職した社員たちは手厳しい。「経営陣は、山崎製パンのような長方形でボリュームのあるパンが今の主流であることを理解できず、小ぶりのあんぱんや蒸しパンに固執して自滅しています。新たな主流商品を開発していかない限り、木村屋に未来はないでしょう」(元社員)
このまま妙案が出ないようでは、同社の看板商品である「酒種あんぱん」が、近いうちに百貨店から姿を消すことになりそうだ。
(文=編集部)