大塚家具内紛、大きすぎる「失うもの」 なぜ父は娘を全力で叩き潰そうとしたのか
勝久氏は大塚家具を創業し、ここまで大きくしてきた最大の功労者です。その功労者が血のにじむような苦労をして築き上げてきたビジネスモデルを「時代遅れ」の一言で全否定し、まったく違うものに変えようとすれば、それがたとえ実の娘であろうと、全力で叩き潰すのは当然のことといえます。
大塚家具にとって高級家具の販売は主力事業であり、利益が出にくい体質になってきているとはいえ、まだまだキャッシュを生み出す「金のなる木」です。この「金のなる木」を伐採して新たな木を植えようといっても、その事業が本当に「金のなる木」になる保証はありませんし、もしなったとしても時間がかかるのは間違いないでしょう。
久美子氏は先日発表した中期事業計画で、中価格帯の家具販売にフォーカスするというプランをぶち上げましたが、現在消費は二極化しており、中途半端なクオリティと価格では消費者から見向きもされない可能性も十分に考えられます。
確かに業績不振に陥った時には、これまでの成功体験をすべて捨て去り、まったく新たな価値観でビジネスを展開すれば大きな成功を収めることも可能です。例えば、アサヒビールはスーパードライを市場に投入した際に、それ以前のビールをすべて廃棄し、スーパードライ一本に注力することにより、ビール業界に革命を起こしました。これは、それまでのビールが「コクか、キレか」という時代に、「コクがあるのにキレがある」というビール業界でイノベーションを起こすことができた結果の賜物なのです。
ですから、大塚家具も従来のビジネスモデルから180度転換して新たなビジネスを展開するのであれば、イノベーションが必要不可欠となりますが、久美子氏の下で策定された中期経営計画からは、残念ながらワクワクするようなイノベーションの青写真は伝わってきません。
つまり新たな事業が「問題児」からスタートして「花形」へと育つかどうかは、まったくの未知数といわざるを得ないのです。
●再び成長軌道に乗せることも十分に可能?
このような状況を鑑みれば、勝久氏の従来のビジネスモデルはまだまだ「金のなる木」であり、主力事業として収益性の向上を模索する一方で、久美子氏の新たなビジネスモデルは新たな業態として大塚家具からスピンアウトして、久美子氏主導の下、早期に収益の柱となるように事業を進めていくことが理想といえるでしょう。
確かに従来の高級家具販売は苦戦しているかもしれませんが、高級家具を購入したいという顧客がいなくなることはないでしょう。そこで、高級家具販売の大塚家具はそのままにして、新たなブランドネームで中価格帯の家具販売事業をポートフォリオの中に組み込めば、経済の波やライフスタイルの変化などに影響を受けない、より安定的な企業運営ができるようになるのです。
優秀な経営者同士で反発し合うのではなく、それぞれの良さを生かす経営を志せば、大塚家具は難局を乗り切り、再び成長軌道に乗せることも十分に可能なのではないでしょうか。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)