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キリン、凋落を招いた稚拙な海外戦略 遠ざかる“M&A巧者”サントリーの背中

文=福井晋/フリーライター
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 さらに「買収はM&A仲介企業へ丸投げの状態だった」(同)との指摘もある。

サントリーの用意周到さ

 そんなキリンHDに比べ、昨年話題となったサントリーHDの米蒸留酒最大手ビーム買収は「M&A巧者」と評されるほど用意周到で戦略的だった。

 13年11月上旬、東京・台場のサントリーワールドヘッドクォーターズへ、ビームのマット・シャトックCEO(最高経営責任者)が足早に入っていった。訪問の目的は、自社製品の売れ行き状況を視察するための挨拶だった。サントリーはビーム製蒸留酒10ブランド26品目の国内独占販売権を取得し、13年1月から販売を開始していた。シャトック氏を社長室に迎え歓談を終えた直後、サントリーの佐治信忠社長(当時、現会長)はビーム買収を決断したといわれている。

 ビームは1967年に米国酒類・家庭用品メーカー、フォーチュン・ブランズ(69年にアメリカン・ブランズに社名変更)に買収され、その子会社になっていた。しかし、主要株主たちが「相乗効果がない」とビームの分離を要求し、アメリカン・ブランズは11年にビームを分離、上場していた。サントリー関係者は「上場直後から佐治氏はビーム買収を検討していた」と打ち明ける。米国の代表的なバーボンウィスキー「ジムビーム」をはじめ、カナディアンウィスキーの代名詞にまでなっている「カナディアンクラブ」など多くの有名ブランドを擁し、世界約120カ国に販路を持つ世界4位の蒸留酒メーカーを買収すれば、サントリーは世界10位から3位の蒸留酒メーカーに躍進できるからだ。

 サントリー社内で秘かにビーム買収プロジェクトチームが組織され、活動を始めたのは13年春頃からとみられる。

「サントリーがテネシーウィスキー『ジャックダニエル』の販売権を捨て、ビーム蒸留酒の国内独占販売権を取得したのは買収への布石。業務提携を通じて相互交流を重ね、その中でサントリーとビームとの相性や相乗効果を確かめるのが目的だった」(食品業界関係者)

 こうした長期的な視野に立つ取り組みが実り、「シャトック氏が帰国すると佐治氏は直ちにシャトック氏やビーム主要株主に買収の意向を伝える私信を送り、彼らの賛同を得た。それからわずか2カ月で買収交渉が決着した」(サントリー関係者)。

●大胆な組織改編

 サントリーがビームに狙いを定めたのは、蒸留酒事業の規模拡大だけが目的ではなかった。20%台を保持し続けている営業利益率の高さが、サントリーにとっては何よりも魅力だった。サントリーの営業利益率は6.7%(14年12月期)であり、グローバルプレーヤーの条件といわれる10%台に遠く及ばない。営業利益率の高いビームを買収すれば、その差を一気に縮められる。キリンが狙ったような営業利益率の低いビールの海外事業をいくら拡大しても、世界には勝てない。それを考えると、株式市場の一部から「高値づかみ」と批判された約1兆6500億円の買い物は決して高いものではなかった。ちなみに買収額は、過去3カ月のビーム社平均株価に24%上乗せした金額である。

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