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キリン、凋落を招いた稚拙な海外戦略 遠ざかる“M&A巧者”サントリーの背中

文=福井晋/フリーライター
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 また、海外蒸留酒市場はスコッチウィスキーの有名ブランド「ジョニー・ウォーカー」を擁する英ディアジオ、同じく「シーバスリーガル」を擁する仏ペルノ・リカールなど上位メーカーの寡占化が進み、サントリーが海外の蒸留酒市場で戦う上でも大手蒸留酒メーカーの買収は不可欠だった。

 ビームを買収したサントリーは、業界関係者があっと驚く挙に出た。それが昨年10月1日付で実施した組織改革だった。サントリー酒類を蒸留酒事業とビール事業に分割。サントリー酒類を国内蒸留酒事業の専業会社とし、ビール事業は新設のサントリービールに移管した。さらにサントリー酒類を子会社化したビームサントリーの傘下に置き、蒸留酒事業は国内外ともビームサントリー主導で進める体制に改めたのだ。

 祖業の蒸留酒事業を買収企業の傘下に置くという、業界内で誰も予想しなかった組織改革の背景には、「ビームサントリーを軸に蒸留酒事業の海外展開を加速し、サントリーの新しい歴史の幕開けをしなければならない」(佐治氏の社員宛メッセージ)という覚悟があった。

●新浪社長の真価が試される「売り上げ4兆円への道」

 国内市場にとどまっていては先細り。佐治会長は社長時代から自社の生き残りをかけ、海外事業拡大とサントリーの国際ブランド化を図ってきた。その佐治氏が初めて手掛けた海外M&Aは、社員時代の80年に行ったペプシコーラ系ボトラー、ペプコム買収だった。この買収を足掛かりに、サントリーは米国清涼飲料市場へ進出した。これはペプシコから国内販売権を取得し、98年からサントリーがペプシコーラを国内販売する布石にもなった。

 ペプコム買収を皮切りに、サントリーは海外事業拡大を本格化している。それを主導したのが佐治氏だった。古くは83年の仏ボルドーの名門シャトー、シャトールグランジュ買収をはじめ、近年ではニュージーランドの清涼飲料メーカー、フルコア買収や仏の清涼飲料メーカー、オランジーナ・シュウェップス買収を主導してきた。そして、昨年のビーム買収が佐治氏による海外事業拡大の陣頭指揮の最後になった。今後は、佐治氏自らが三顧の礼で迎えた新浪剛史社長が担うことになる。

 その新浪氏が背負った目標は「20年に売上高4兆円」。飲料の「グローバルプレーヤーになるための必須ライン」(サントリー関係者)と、佐治氏が設定した目標といわれる。うち1兆円を蒸留酒事業で稼ぐ計画だ。15年12月期の蒸留酒事業売上高目標は、前期比約26%増の6733億円。ビームサントリーの業績が通年寄与するため今期の伸び率は高いが、16年12月期以降も10%台の前期比増を保持しなければ、20年の1兆円は達成できない。

 新浪氏には、ローソン再建を託された時以上の重圧がのしかかっている。
(文=福井晋/フリーライター)

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