アップルの“部品メーカー”サムスン外しで囁かれる帝国の崩壊
韓国サムスン電子の経営を牽引してきた半導体事業が、揺らいでいる。
米アップルとのスマートフォン(多機能携帯電話)訴訟が火種になり、アップルから部品取引を大幅に縮小されているためだ。2013年には半導体投資を12年比で半減するとの観測も広まる。2000年代の電機業界を席巻した「サムスン帝国」は崩壊してしまうのかーー。
9月下旬、韓国の複数のメディアは、13年のサムスンの半導体投資が前期比でマイナスに転じると報じた。半導体投資の減少は4年ぶりで、過去最高の投資水準と見られる12年の14~15兆ウォンから半減する可能性もあるという。メモリ市況悪化に対応するための引き締めや、世界各地で訴訟を繰り広げるアップルへの牽制など「もっともらしい」理由が指摘されている。真偽は不明だが、半導体投資縮小の原因がアップルとの関係にあるのは間違いない。
●「サムスン外し」が鮮明となったiPhone5
日本でも発売されたアップルのスマートフォン・iPhone5。発売前から話題になったのが一世代前の「4s」までは最大のサプライヤーであったサムスンの存在感の低下だ。証券アナリストは、次のように語る。
「世界シェア首位を握るDRAMやNAND型フラッシュメモリでは、サムスンからの供給はわずか。エルピーダメモリや韓国のSKハイニックス、東芝への発注を増やして『サムスン外し』を鮮明にした」
液晶パネルも東芝とソニー、日立製作所の中小型ディスプレイ事業を統合して誕生したジャパンディスプレイや韓国LGディスプレイに発注している。
アップルとサムスンは、2年前までは蜜月関係にあった。00年代初頭に音楽デジタルプレイヤー・iPodにサムスンがフラッシュメモリーを供給。アップルはiPhoneなどの開発費用を賄える収益を上げ、サムスンも最高益を記録した。
●転機は2010年発売のギャラクシーS
変化はサムスンが10年にスマホ『ギャラクシーS』を発売したことで訪れた。部品屋に過ぎなかったサムスンが、世界の巨大電機企業に成長してスマホ市場になぐり込みをかけてきた今、アップルのサムスンへの意識も変容するのが自然、と見たほうがいい。
「4s」ではサムスンの部品はアップルの部品全体のコストの3割程度とも言われた。ただ、現在、サムスンがメーンサプライヤーとなって供給するのは演算処理に使うプロセッサのみ。そのプロセッサも、「世界最大の半導体受託生産メーカー・台湾TSMCにアップルが切り替えるのでは?」との憶測が日に日に現実味を帯びてきている。
●アップル、2013年発売予定のiPad新型からプロセッサ発注先も変更?
台湾現地紙の報道では、すでにアップルはTSMCのアップル向けの試作ラインを認可しており、TSMCは来年の発売がウワサされているタブレット端末・iPadの新型機からプロセッサ供給を始めるとの見方が支配的だ。
米国の調査会社ガートナーの調べでは「4s」の出荷量はモデル末期でも月約1000万台に上る。圧倒的な規模を考えれば、部品ビジネスがサムスンの経営の生命線だったことは間違いないとみていい。半導体設備投資額の大幅な減少が、サムスンの厳しい明日を物語っている。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)