数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
ひっきりなしにスマートフォン(スマホ)をタップしていて、ふと感じるときがある。
「こうしてスマホをタップしている間に、私の人生は終わるのかな」
50代に入った筆者だけの感覚ではないだろう。大多数の人は、スマホと向き合っている時間が人生の中で大部分を占めている。筆者よりももっと若い世代になればなるほど、毎日自分の時間がどんどん細切れになっていくことに気づいているはずだ。
メールの時代はまだ平和なことに、24時間以内にレスをすればOKというルールだったものが、LINEの時代に入ってからは、すぐ読んですぐにレスをすることが半ば義務化された感がある。LINEだけでなく、スマホのアプリにはひっきりなしにプッシュのメッセージが到着する。そのたびにそれまでの作業をやめて、スマホの画面を眺める自分がいる。別にスマホだけを悪者にするつもりはないが、生活のあらゆるところにこのような時間の細切れ化現象は広まっている。
筆者の取引先企業では、会議の時間設定はデフォルトが1時間単位から30分単位に変更されて久しい。この会社では比較的多忙な社員の場合、毎日十数個の会議に出席しているようだ。そのたびに彼ら彼女らは頭を切り替える必要がある。
外回りの移動方法も昔とずいぶん変わった。社外のアポイント先に移動する際にも、路線検索を駆使することでJRや地下鉄の乗り継ぎも数分単位の無駄はなく、取引先には魔法のようにいつも5分前に到着することができている。
アポの合間のひと時はスタバやドトールで時間をつぶすが、そこも憩いの場ということにはならない。20分ぐらいのわずかな合間を使って必死にスマホをタップしてメール返信をしているうちに時間は過ぎていく。財布の中に大量に入っている喫茶店のレシートは、コーヒー代というよりもメールを打つための席代といえる。
生産性向上には限度がない
このような細切れ型の仕事のスタイルは、変えられないのだろうか?
残念な結論だが、基本的にはこれから先の未来を生きる社会人にとって、このようなワークスタイルが変わる可能性は非常に低いと断言できる。たとえスマホをやめたとしても、それはなんの解決ももたらさない。
その理由は簡単で、経済というものは常に生産性の向上を求めるからだ。