ビジネスジャーナル > 経済ニュース > 新リース会計基準、企業不動産の見直しが不可避

新リース会計基準、企業不動産の見直しが不可避…「PBR1倍割れ」対策の死角

2026.10.18 05:55 2026.10.17 10:33 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=村井綾乃/税理士

新リース会計基準、企業不動産の見直しが不可避…「PBR1倍割れ」対策の死角の画像1

●この記事のポイント
PBR(株価純資産倍率)改善要請が続く中、企業の保有不動産に制度変更が重なる。2027年4月以後開始年度から強制適用の新リース会計基準でリースバックのオフバランス効果は縮小し、東京都の削減義務率はオフィスビルで50%に上昇、貸付用不動産の相続税評価も見直される。負動産化のサインと、棚卸し・資産入れ替えなどのCRE戦略を解説する。

 東証の要請から3年半。資本効率の議論は、いよいよ「本業以外の資産」に及んでいる。なかでも見直しが後回しになりがちなのが、自社で抱える不動産だ。2027年前後に節目を迎える会計・環境・税の3つの制度変更を手がかりに、保有不動産がいつ「負動産」に変わるのか、何から手をつけるべきかを整理する。

●目次

「不動産は安全資産」という前提が揺らぐ

 東京証券取引所が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を要請して以来、企業の対応は形になってきた。東証の集計では、2026年9月末時点でプライム市場の94%(1,445社)が取組みを開示し、うち82%は内容を更新済みだ。大和アセットマネジメントのレポート(2026年7月)によれば、TOPIX構成企業のうちPBR1倍未満の比率は2022年12月末の51%から2026年6月末には38%まで低下した。

 それでも、TOPIX構成企業のおよそ4割は、市場から「純資産ほどの価値もない」と評価されている計算になる。開示が一巡したいま、問われているのは計画の中身だ。自社株買いや増配の次に議論の俎上に上がりやすいのが、バランスシートに長く眠っている不動産である。

 自社保有の不動産がどれだけの利益を生んでいるのか。含み損益はいくらなのか。物件ごとに即答できる経営陣は、実務の実感としてはそう多くない。管財部門が台帳を持ち、経理が減価償却を回し、経営企画は全体のROAだけを見る。その分断が、制度変更の影響を見えにくくしている。

2027年に重なる3つの制度の節目

1.会計:新リース会計基準で「オフバランス」の前提が変わる

 企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月に公表した新リース会計基準は、2027年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用される。借手は原則としてすべてのリースについて、使用権資産とリース負債をバランスシートに計上する。

 これまでCRE戦略の定番だった「売却して借り戻せば資産が軽くなる」という発想は、ここで前提が崩れる。セール・アンド・リースバックをしても、借りている限り資産と負債は残るからだ。

「新基準の下では、持つか借りるかでバランスシートの大きさはそれほど変わらなくなります。比べるべきは、その拠点が本業でどれだけ稼いでいるか、そして借りることで将来の選択肢がどれだけ広がるか。見かけのROA改善を狙った売却は、説明が難しくなるでしょう」(税理士・村井綾乃氏)

2.環境:「省エネ性能」が建物の価値と維持コストを左右する

 東京都のキャップ&トレード制度(原油換算で年1,500kL以上の大規模事業所が対象)は、2025〜2029年度の第四計画期間で削減義務率を大きく引き上げた。オフィスビル等は基準排出量比27%から50%へ、工場等は25%から48%へと、ほぼ倍増している。

 義務を自力で達成できなければ、排出量の取引や再エネ電力の調達でまかなう必要がある。いずれもコストだ。国レベルでも2025年4月から原則すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられ、性能の低い既存ビルとの差は今後さらに開いていくとみられる。

「テナントや買い手が環境性能を気にするのは、もう一部の大企業だけではありません。改修の余地がない古いビルは、賃料と売却価格の両面で評価が下がりやすい。いわゆるブラウン・ディスカウントです。実際の取引でどこまで価格差がつくかは物件次第ですが、少なくとも『買い手の数が減る』ことは織り込んでおくべきです」(不動産アナリスト・伊藤健吾氏)

3.税制:オーナー企業を直撃する「相続評価」と「事業承継」の期限

 非上場企業やオーナー経営者にとって見逃せないのが税制だ。令和8年度税制改正の大綱を受け、国税庁は2026年9月18日に貸付用不動産の評価に関する通達案を公表した。相続・贈与の前5年以内に取得した貸付用不動産は、路線価ではなく原則として通常の取引価額で評価する内容で、2027年1月1日以後の相続・贈与から適用される見込みだ(2026年10月時点で意見公募中)。不動産取得による相続税の圧縮を前提とした承継計画は、見直しが避けられない。

 あわせて、法人版事業承継税制の特例承継計画の提出期限は1年6か月延長された。準備期間が延びた分、株価評価に効く保有不動産の整理を同時に進める余地が生まれたと捉えたい。

 このほか、稼働率の低い拠点は減損リスクを抱え続け、固定資産税や修繕費は使っていなくても毎年かかる。どれも急な変化ではないが、何もしなければ確実に積み上がる類のコストである。

「優良資産」が「負動産」に変わるサイン

 制度の影響を受けやすい物件には、共通する兆候がある。物件ごとに次の5項目を当てはめ、複数に該当するものから検討の俎上に載せたい。数値の目安は業種や立地で変わるため、自社のハードルレートに合わせて設定してほしい。

【健全な状態】
事業への貢献 本業の拠点として稼働し、代替が効きにくい
資本効率   物件が生む利益が資本コストを上回る
環境性能   省エネ性能が高い、または改修計画がある
流動性    都心・駅近など、第三者に売却しやすい
情報の後追い 時価・含み損益・維持費を定期的に把握

【負動産化のサイン】
事業への貢献 稼働率が低い、倉庫代わり、未利用地
資本効率   簿価は大きいが、利益への貢献が説明できない
環境性能   削減義務や改修費が見積もれていない
流動性    地方・郊外の単機能物件で買い手が限られる
情報の後追い 取得以来、時価を一度も確認していない

最後の「情報の後追い」は追加した項目だが、実際にはここでつまずく企業が少なくない。データがなければ、そもそも上の4項目を判定できないからだ。

財務部門がいま検討すべき3つのアプローチ

1. 売却・流動化:「資産を減らす」より「資金を生かす」

 セール・アンド・リースバックや信託受益権化は、含み益を実現して成長投資や負債の圧縮に回す手段としては今後も有力だ。ただし先述のとおり、新リース会計基準の下ではリースバック後も使用権資産とリース負債が計上される。取引の条件によっては、売却ではなく金融取引として扱われる可能性もある。「オフバランス化でROAが改善する」という説明は、もうそのままでは通らないと考えた方がよい。得た資金をどこに使うかを、売却とセットで示せるかどうかが問われる。

2. 資産の入れ替え:総額ではなく中身を入れ替える

 使い切れていない地方の営業所や遊休地を売却し、省エネ性能の高い拠点や本業の設備へ再投資する。資産規模を大きく変えずに、将来の環境コストや減損リスクを下げられるのが利点だ。売却と取得のタイミングがずれると税負担が先に発生するため、買換特例などの要件を早めに確認しておきたい。

3. 所有から利用へ:「柔軟性」の価値で比べる

 自社ビルを手放して賃借やシェア型オフィスに移れば、修繕費の振れや環境対応の負担を貸主側に寄せられる。一方で、会計上は賃借でもリース負債が計上されるため、バランスシートが軽くなる効果は小さい。評価すべきは、事業の縮小や拡大に合わせて拠点を動かせる「選択肢の価値」だ。短期の契約ほど賃料単価は上がりやすく、総コストでは保有に劣る場合もある。そこまで含めて比較したい。

「オーナー企業の場合、会社の不動産をどうするかは、そのまま株価評価と相続の話に直結します。売っても持っても税は動くので、税制改正を見てから慣てて動くより、試算を先に済ませておく方が選べる手は多くなります」(村井氏)

まずは「棚卸し」から

 企業不動産の管理は、総務・管財部門のコスト管理から、CFOや経営企画が担う資本配分の問題へと移りつつある。ただ、売るか持つかを決めるのは先でよい。最初の一歩は、物件ごとの時価、含み損益、稼働率、維持費、省エネ性能を一つの表に並べることだ。

 新リース会計基準の強制適用、貸付用不動産の評価見直し、東京都の削減義務の強化。いずれも日程はすでに見えている。対応を急がされる前に自社の数字を握っていれば、不動産は「説明を求められる資産」から「資本効率を示す材料」に変わりうる。その差は、数年後の投資家との対話ではっきり表れるはずだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=村井綾乃/税理士)

【主な参照データ・出典】
日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営」開示状況(2026年9月末時点)
企業会計基準委員会 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
東京都環境局 キャップ&トレード制度 第四計画期間の改正事項(別紙2)
東京都環境局 総量削減義務と排出量取引制度(対象要件)
財務省 令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)

BusinessJournal編集部

Business Journal

ポジティブ視点の考察で企業活動を応援 企業とともに歩む「共創型メディア」

X: @biz_journal

Facebook: @bizjournal.anglecreate

ニュースサイト「Business Journal」

公開:2026.10.18 05:55