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40代定年、社員を即刻振り落とし…韓国社会が“超過酷”になった22年前の契機

文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家
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 韓国の人たちは“嫌われる勇気”など最初から持ち合わせていると思っている人もいるだろうが、実はそうとも言いきれない。日本人は「お天道様」や「世間」など、抽象的な他人を気にするが、韓国人は常に年配者の目を意識しているからだ。

 それだけではない。日本以上の急速な少子化が進む韓国では、親の介護が大きな社会問題になっており、さらに加えて格差社会、受験地獄、就職難など、いろんな重圧に押し潰されそうになっている。反日に関しても、「親日に見えると糾弾される」という恐怖からやっている者も少なくない。韓国人は日本人以上に他人の目を気にして、ストレスにさらされているのだ。

45歳前後で給料はピーク

 1980年代、かなりの数の日本企業が韓国に進出した。韓国は人件費が低く、他国のアジア諸国より教育水準が高く日本からも距離が近いので、製造業が海外進出するのに適した国だと考えられていた。だが、実際に進出するとストライキが頻発して生産性が上がらず、多くの企業が撤退を余儀なくされている。

 当時の韓国人は日本人のように労働に価値を置いていなかった。韓国人学生に聞いてみたのだが、できるだけ働かないで本を読む生活に憧れている学生が思いのほか多かった。働くことはむしろ「悪」であり、働かないで食べていけることが最上だと考えられていた。そのため、日本人と比べると、ストライキをして会社に罪悪感に持つようなこともなかった。反日感情が原因だといわれることもあったが、その奥底には、勤勉に働かねば生きていけないことへの嫌悪感のほうが大きくあったのではないだろうか。

 だが、そんな一種牧歌的な雰囲気も、1997年の通貨危機IMF(国際通貨基金)による過酷な緊縮政策指導によって様変わりした。45歳前後で給料がピークになり、その後は急減するような給与体系を採用する企業が増えた。それまでに幹部になれなければ、若手社員並みかそれ以下になってしまうのだ。長時間のサービス残業など当たり前。とにかく会社に忠誠を尽くす。やがてこれが定着して、「40代定年」とでもいうべき過酷な「制度」ができあがってしまった。

 これは、会社にとって「使えない社員」を早めに振り落として、企業の競争力を保つための方策であるが、労働者からすれば、これほど過酷な制度はない。まさに、残るも地獄、辞めるも地獄。やがて経済も立ち直り、現在は政府主導で定年延長も進められているものの、まだまだ十分とはいえない。50代で退職して退職金で一旗揚げようという人たちはいまだに後を絶たないようだ。

 韓国人はいつも他者の目を気にしてストレスがたまっている。自由奔放さが魅力の島崎も、韓国で暮らしていたら潰れていたかもしれない。
(文=白川司/国際政治評論家、翻訳家)

白川司(しらかわ・つかさ) 国際政治評論家・翻訳家。世界情勢からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。最新刊に『議論の掟』(ワック刊)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)ほか。「月刊WiLL」(ワック)、「経済界」(経済界)などで連載中。

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