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「ココロに効く(かもしれない)本読みガイド」山本一郎・中川淳一郎・漆原直行

「あの白いネコがお腹を出してきたよ!」ネコとオレの素晴らしき日々、そしてネコ万歳

文=中川淳一郎/編集者
「あの白いネコがお腹を出してきたよ!」ネコとオレの素晴らしき日々、そしてネコ万歳の画像1「お腹ネコ」

【今回取り上げる書籍】
『そでねこ』(チームそでねこ/小学館)

 1月23日にオンエアされた『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)で、いかにネコが最近人気かという特集が展開された。番組では、日本国内で飼われているペットの数で、ついにネコがの頭数を上回りそうだと紹介するほか、インターネットの動画再生でもネコの人気が高いこと、さらには海外でも猫カフェが登場するなど、ネコ人気が世界的なものになっていると説明された。

「あの白いネコがお腹を出してきたよ!」ネコとオレの素晴らしき日々、そしてネコ万歳の画像2『そでねこ』(チームそでねこ/小学館)
 さらには、もともとネコが好きでもなかった33歳独身男性が、今はネコのために外食もせずさっさと家に帰ってネコと戯れる姿などを紹介し、これでもか! とばかりにネコ人気を伝えるのである。

 そのなかで気になる描写があったのだが、東京・神保町の「姉川書店」でネコ本コーナーをつくったところバカ売れし、今や売り上げの7割をネコ関連本が占めることや、450点ものネコ関連本があることが紹介された。

 だったら出版業界にとって、ネコ本ってどーなのよ? ということを考えてみたい。過去には『猫鍋』や『飛び猫』といった数々のヒット本があるが、今『そでねこ』という種類のネコがいるらしい。飼い主の洋服(ニットやパーカー、コートなどさまざま)の袖から顔を出すネコの写真を掲載しまくったのが本書である。まぁ、呑気な姿ばかりでかわいいネコども続々登場、である。

 オレ自身はまさに前出の33歳独身男性と同じである。昔はネコに関心がなかったが、今はネコが大好きである。その話は最後に書くとして、まずは担当編集者(美女!)に『そでねこ』について聞いてみた。

ネコが出版業界を救う?

――出版業界において、ネコ需要は犬需要よりも高いものなのでしょうか? 昨今では「じゃらん」「Y!mobile」をはじめ、CMにもキャラが立ったネコがたくさん登場していますが、そういった状況はなぜ発生していると思いますか?

担当 これは私だけの意見ではなく、多くのネコ好きが分析していることでもあるのですが、昨今のネコブームはSNSの拡散がもたらしたということに尽きると思っています。犬は散歩もあるし、「うちの子かわいいでしょ?」と不特定多数の人に日常的にアピールできていたと思うのですが、ネコはそうじゃなかった。

 ところがSNSが普及し、「うちの子かわいいでしょ?」と主張できるシーンが増えた。 しかも、ソファやベッド、トイレにお風呂と、非常にプライベートな空間でリラックスしているネコの写真です。そんなごくプライベートなシーンを共有できるということで、 ネコ好きのつながりは強く大きくなって、このブームを巻き起こしたのだと思います。

 一方で犬は、犬種により、体格や顔などさまざま。それに比べて猫は猫種により、見た目が大きく変わることはほとんどありません。そういう意味で、たとえば犬派に「チワワはいいけど、シェパードはね……」という人がいても、ネコ派の場合、ストリートキャッツにさえ愛を抱くと思うのです。さらにネコの自由気ままな性格。それは窮屈に生きている人間にとって、憧れであり、自分の理想の体現でもある。やっぱりネコっていいですよね。

――出版業界にとってネコは、売り上げや読者の支持獲得といった点で助かる存在なのでしょうか?

担当 そうだと思います! というのも、書店回りをしてみて、みなさんおっしゃっていました。「コノ手の本が毎日のように入ってくる」と。つまり激戦であり、それは出版社がどんどんネコ本をつくっているからだと思います。それはやっぱり、需要があるからかと。

――『そでねこ』を企画することになったきっかけを教えてください。

担当 単純に、うちの飼いネコが気付いたらもこもこパーカーのそでから顔を出して、ゴロゴロ喉を鳴らしていたことがきっかけとなりました。確かに、ネコは「狭くて温かいところが大好き」なんですが、その顔が、「もじもじくん」みたいで、愛嬌があって、かわいくて! こんなネコを集めたらかわいいなと思ったのです。

――自宅で飼っているネコをそのまま企画にできたことに驚きはありますか? 社内でのプレゼンはどうやって説得力を出したのでしょうか?

担当 かわいくて、ほっこりするということには自信があったので、とにかく写真を見てもらいました。社内プレゼンも同様です。どんなに言葉を並べるよりも、説得力があったと思います。

ネコとオレとの出会い

 というわけで、「出版不況」といいつつも、ネコ写真というジャンルは活況のようである&出版社に入りたい若者が減っているらしいが、こうやって自分の趣味でも仕事にできちゃうような自由さがあるので、ぜひとも皆さん入ってきてください。

 よし、キチンと本は紹介した&担当者のコメントも取ったので、ここからはオレのネコ偏愛っぷりを書いておこう。

 オレはもともとネコは嫌いだった。というのも、オレが若い頃住んでいた家賃3万円のボロアパート周辺では野良猫が大量に発生しており、発情期ともなろうものなら、藪の中でギャーギャー毎晩鳴きわめき、モテないオレとしては「ケッ、貴様らエロいことしやがって、羨ましいぞ、この野郎」という感情を持っていたからである。ちなみに東海林さだおの漫画には、花を見て憤怒の形相を浮かべるモテない男が登場する。理由は「おしべ」と「めしべ」があり、男女がくっついているからだという。さらには、「安倍」という表札を見てこの男は怒りだす。理由は「アベック」を想像するからだという。この男のすさまじいところは、自分が使っている薄っぺらい敷き布団に対しても怒りを覚える点だ。

 友人がなぜ、そこまで布団に対して怒りを覚えるのかを聞くと、「アベック」に通じる「安倍川餅」があり、「餅」から「煎餅布団」にも怒りを覚えたというのである。こういったはちゃめちゃな論理展開こそ、東海林先生の真骨頂である。

 脱線したが、そんなオレのネコ観を変えたのが、2005年のことである。当時オレは下北沢の近くの一軒家に恋人と2人で住んでいたのだが、彼女が大喜びしながら帰ってきた日がある。その時彼女はこう言っていた。

「ねぇねぇ、通り過ぎるとお腹を出す白いネコがいるんだよ! お腹を撫でてきたよ!」

 ネコのことなんてどうでもいいと思っているオレとしては、「ふーん」程度にしか反応しなかったのだが、彼女はその後も「今日もあの白いネコがお腹を出してきたよ!」と言い続ける。そしていつしかそのネコには勝手に「チロ」という名前をつけた。首にスカーフを巻いているので、どこかの飼い猫だろうと彼女は言っていた。

 そんなある日、オレが家の外に出て水槽を洗っていたら、白いネコがじーっとこちらを見ている。「彼女が言っていたネコはこれだな」と思いつつも、オレとしては、水槽からタライに移した我がペットのドジョウ(フレディ)・ザリガニ(ブタ1号、ブタ2号)・ハゼ(よしお)をこのネコが狙っているのではないかと思い「フンギャー!」とこいつを威嚇した。

 しかし、このネコは逃げずに「ニャー!」とだけ鳴き、こちらを見ている。オレはかわいいかわいい我がペットがこいつに食べられてしまうのではないかと心配し、水槽を洗うスピードを速め、さっさと家の中に水槽を運ぶことだけを考えていた。この時、この白ネコは単なるイヤなヤツだったのである。

 しかしある時、彼女と一緒に歩いていたらこいつがこちらに寄ってきて突然仰向けになるではないか! 彼女は「かわいい~!」と狂喜乱舞。「あなたも触ってみなよ」と言うので恐る恐る触ったらこの白ネコは嬉しそうである。この時、初めてネコをかわいいと思った。以後、オレもチロのことを撫でるようになり、ネコ好きになった。

 時々チロは獰猛なほかのネコに追いかけられたりしていた。その時彼女は「こらっ!」と言い、そのネコからチロを守ろうとしていた。時々ひっかかれた傷のようなものもあるチロ。白い身体に傷は目立ち、見るのも痛ましいことがあった。

 結局07年にその家からオレは引っ越すのだが、下北沢に行く時は必ず遠回りをし、以前の家の周囲を歩きチロを探した。3回に1回ぐらいはチロに会え、その時の寂しい気持ちを癒してくれるとともに、過ぎ去った素晴らしい日々を思い返させてくれた。

 09年以降、チロにはもう会っていない。

 ハッ、オレは何を自分語りしているのだ! 話は『そでねこ』の話だったろうよ! つーか、オレは「お腹ネコ」という写真集が出たら絶対に買うぞ! ネコ万歳。
(文=中川淳一郎/編集者)

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