動物虐待が多発!下半身切り取り、頭部に刃物刺す、エアガンで撃ち抜く…
『多摩川猫物語』(角川書店)の著者で、野良猫たちの治療や給餌を続けるフリーランスカメラマンの小西修氏に話を聞いたところ、多摩川河川敷には身勝手な人間に捨てられた不遇な猫がたくさんいるという。しかも、そんな猫たちに対し、飼い犬のリードを放してけしかけ、猫を咬み殺させたり、刃物で猫を切りつけたり、改造エアガンで射抜いたり、毒殺したり、ゴルフクラブで顎を砕いたりする人間がいるという。
これは多摩川だけに限った話ではあるまい。それに犬に対する虐待もあるはずだ。そこで筆者は今年2月、東京都と神奈川県横浜市・川崎市に対して「犬猫の虐待に関する通報相談等、虐待事実を記載した文書」を過去3年分、情報公開請求した。数カ月後、文書が開示されたが、やはりそこには虐待の横行している実態が記されていた。
頻発する動物虐待、横浜市の事例
例えば、次のような事例だ(日付は役所が通報を受けた日)。
・2013年10月21日、横浜市泉区 民家の大きな庭の木に犬が短いリードでつながれており、台風の時でさえ小屋に入れないというネグレクトに遭っていた。
・14年2月27日、横浜市泉区 猫の体に10cm四方の段ボール片6枚が接着剤で貼り付けられていた。通報者はハサミで段ボールを切り取ったが、一部は刃がダメになるほど強力につけられていた。
・12年7月13日、横浜市戸塚区 犬を車に閉じ込めたまま飼い主は仕事に出かけ、朝から夕方まで放置。犬は夕方衰弱死した。
・14年7月29日、横浜市戸塚区の山中 ヘアゴムで巻かれた状態の猫が不審死。同区内では、体にヘアゴムを三重巻きにされた猫がたびたび見つかっている。
・12年2月7日、横浜市青葉区 ゴミ集積場の柱に結び付けられたハンガーから釣り糸が垂れ、その先には釣り針に肉がつけられていた。それを散歩中の犬が針まで飲み込んでしまう事件が発生。4日前にも同様の事件が起きていた。
・14年6月6日、横浜市青葉区 小学校の校庭で、猫が頭に水の入ったコップをかぶせられた上、ガムテープで首まで巻かれて瀕死しているのが発見された。
・12年6月1日、横浜市港北区 小学生が下校途中に、猫の首にビニールを巻いたり、スプレーをかけていた。
・12年8月26日、横浜市港北区 深夜、猫が頭にスナック菓子の袋をかぶせられ、その上から首のあたりをヒモで結ばれているのを通行人の男性が発見。その付近で、男女二人組が「猫をさらって三味線にする」と会話していたとの情報もあった。
・12年4月18日、横浜市中区 エサやり場の近くで3匹の猫の死体が発見された。
・12年8月30日、横浜市中区 鋭利なものを頭部に刺された猫と、片目が潰れている猫が発見された。
・12年5月16日、横浜市旭区 野良猫に普段エサをやっていた人物が、集合住宅の自宅で野良猫に出産させたが、その処置に困り、建物の裏に埋めているところを近所の住人に目撃された。動物愛護法に規定する動物の虐待および遺棄に該当するが、逮捕起訴されていない様子。
・14年12月24日、横浜市金沢区 ミニチュアダックスフンド・ロングコートを譲渡された人物が、1カ月間その犬を狭いケージに入れっぱなしにしていた。犬は毛が抜け、横腹にドライバーのようなもので刺された傷が見つかった。さらに同人は、飼い猫2匹にも画鋲を刺したり、洗濯バサミで約20カ所挟み、シッポの付け根を輪ゴムで縛るという虐待をしていたことも判明。
・13年11月25日、横浜市磯子区 飼い犬2匹のうち1匹を床に投げつけて後ろ足を骨折させた。
・12年4月17日、横浜市保土ケ谷区 野外で飼育されているビーグル犬が、小屋の中に積み上がった糞を食べていた。
・12年4月23日、横浜市保土ケ谷区 迷彩服を着た人物が他人の家の敷地内に入りこみ、その家の飼い犬に石を投げたり、犬小屋を倒して犬を閉じ込める事件が発生。ストーカー事件として処理されている。
・12年4月10日、横浜市保土ケ谷区 腹部に大きな傷を負い、血だらけになっている猫や、背中の毛を刈られた猫が見つかる。
・12年6月1日、横浜市南区 下校中の子どもが弱っている猫を発見。消毒殺菌薬として使われるクレゾールが付着していた。子どもとその保護者が動物病院に連れて行ったが、やけどがひどく、後に死亡した。
・13年6月、横浜市港北区 外から帰宅した飼い猫が具合悪そうなので動物病院に連れて行ったが、死んでしまった。自動車用バッテリー液に含まれるエチレングリコール中毒だった。さらに翌日、世話をしていた野良猫が、ぐったりと倒れヨダレを垂らして動けない状態になっていたので病院に連れて行ったが、痙攣を起こして死亡。除草剤などの農薬中毒が疑われるという。
・日付不明、横浜市瀬谷区 マンションの住人が日常的に飼い犬を虐待していた疑いがあり、大きな音と犬の悲鳴が聞こえると近隣住民が通報。
川崎市の事例
・14年6月、川崎市中原区 「猫のヒゲは必要ない」と言って切った人物が通報された。
・日付不明、川崎市宮前区 子猫が銀色のスプレーをかけられて弱っているところを見かけた通行人が通報。警察が到着する前に子猫は死んでいた。この付近では14年8月に、民間駐車場で下半身が切り取られた子猫が発見されている。
・14年11月、川崎市内の某公園周辺 引っかき傷によって血だらけの腕で、暴れている成猫の尻尾を持って歩いている不審者が目撃された。この公園周辺では1年ほど前から猫の数が減っているという。猫を袋に詰めているところを見たとの目撃報告もある。
・日付不明、川崎市幸区 飼い主がボールのように猫を蹴飛ばしたり、床に投げつけていたことが判明。
・川崎市麻生区 07年頃から虐待が疑われる現象が続いている。07年10月には左前足の先が切れた子猫が保護された。それから数年後、足先が切断された猫を近くの住人が保護。さらに数年後、個人墓地の前にタヌキや猫の足らしきものが数本置かれていた。13年3月、成猫の左前足が切られているのが見つかった。同時期、ほかの猫の左足先も切断されていた。
・14年11月、川崎市宮前区 散歩中の犬が、魚のアラに青緑の粉が付着して置かれていたのを食べて痙攣を起こした。
・14年、川崎市内 昨日まで元気だった野良猫が突然、外傷もないまま死体で発見される事件が7~8回も続いた。同年9月にも、ぐったりしている猫を見かけた通行人が動物病院に連れて行き血液検査をしたところ、自動車用バッテリー液を飲んだ疑い。その猫は同日、死亡。
・13年6月、川崎市内 3日間で計6匹もの野良猫が相次いで不審死。何者かがエサに毒を盛った疑い。
・13年11月、川崎市麻生区 血を流している猫が見つかり、左足首あたりが切断されていた。動物病院によると、狩猟用の罠であるトラバサミに挟まれた可能性が高く、同年中に同様の事件は2例あったという。横浜市磯子区でも、野良猫が前足をトラバサミに挟まれ、鎖ごと引きずっている姿が目撃されている。
情報がほとんど黒塗りされている東京都
東京都でも虐待は多数起きている。公文書の件名を一部列挙するだけでも、惨状を垣間見ることができる。
「地域猫の監禁と虐待の疑い」
「隣の家の子供に猫が虐待されている」
「譲渡先で、譲渡した子猫2匹が不審死した件」
「飼い猫2匹がペンキに漬けられた件」
「アパートの住人が飼い犬を性対象にしている」
「目黒区での猫の遺棄・虐待、猫を保護したい」
しかし、肝心の具体的な内容については、「特定の個人を識別することができるものであり、公にすることにより当該個人の権利利益を害する恐れがある」という理由で、多くの箇所が黒塗りされていた。こうやって臭いものにふたをして目を背けていると、いつまでたっても不幸な犬猫はなくならない。筆者は、東京都に対し異議申し立てをして、黒塗り部分の開示を求めている。
なお、東京、横浜、川崎だけでもこのように虐待は横行しているが、実に一件たりとも逮捕、立件された形跡はない。このような状況が虐待をはびこらせる一つの要因といえよう。
(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)