統計上、鶏卵を毎日1個食べている私たち日本人は、「卵が大好きな国民」といえます。卵は、雌の鶏が産み落としてくれます。まず、この当たり前のことを理解していなくてはなりません。
親鳥から産まれてきた卵を孵化させ、ひよこの雌雄を選別し、雌のみを大きく育てて卵を産む鶏とします。生後120日くらいまでは、ひよこ専用の鶏舎で育てられ、それ以降に卵を産ませる鶏舎で飼われます。
ちなみに、雄のひよこは水一滴すらも与えられずに処理され、肥料などになります。アメリカ等の農場では、鶏の餌として利用している所もあります。
鶏農家では、120日齢くらいから飼い始め、450日齢くらいまで飼うのが一般的ですが、卵を産む親鳥を一度だけでなく二度、三度と使用している養鶏場があります。
450日齢以降も卵を産ませるためには、鶏に一度“冬”を経験させる必要があります。自然界では、冬になると餌が取りづらくなり、水も十分に取れなくなります。そこで、養鶏場の中で、2週間程度餌や水を与えないでいると、鶏は冬になったと思い換羽します。このようにして人工的に冬を経験し、再度春を迎えると、また卵を産む鶏となれるのです。強制的に換羽させる期間を、業界用語では「強制換羽」といいます。
しかし、餌や水を2週間も与えられないことで、死んでしまう鶏が、一般的な飼養期間よりも多くなります。強制換羽の期間は身体が弱ってしまうため、食中毒の原因になるサルモネラに親鳥が汚染されやすくなります。親鳥が汚染されると、産まれてくる卵がサルモネラに汚染されるリスクが大きくなります。
もっとも、鶏が2週間も飲み食いできなくすることは、動物虐待に当たるとしてEUなどでは禁止されています。しかし、日本では強制換羽を繰り返している農場もあります。
鶏の幸せを考えたときに、親鳥を経済的に活用する強制換羽を行うべきかどうかを日本も考え直す時期に来ていると思います。
食品は、私たちの健康の基本です。健康に必要な卵は、健康な鶏からしか産まれてきません。健康な鶏は、砂浴びが自由にでき、止まり木に止まることができ、自由に運動できる環境が必要です。
日本のほとんどの養鶏場は、砂浴びもできず、止まり木もなく、自由に運動できないようなケージの中で飼育され、何度も強制換羽させられて機械のように使われている親鳥から生まれてきています。卵を食べるときに、鶏の一生を考えてみませんか。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)