教育移民はマレーシア「イスカンダル」へ? 国外移住する日本人が増加中
一方、日本からのアクセスがよく、永住できるリタイアメントビザがあるのがフィリピンだ。経済条件は50歳以上なら定期預金2万ドル(約180万円)以上、35歳以上50歳未満なら定期預金5万ドル(約450万円)以上などといった条件がある。しかし、日本からのアクセスがよすぎるせいか、困窮邦人化するがケースがある。困窮邦人とは海外で経済的苦境に立たされた日本人のことだ。滞在に必要なビザを延長していないために、不法滞在に陥っていることが多い。帰国には不法滞在期間の罰金(一カ月約3000ペソ=約6000円)と飛行機代を払わなければならないが、その額を負担できないために、日本大使館に駆け込むのだという。大使館に援護を求めて駆け込む困窮邦人はフィリピンが103人と最も多いのだという(2位はタイで68人だ)。
こうしたフィリピンの困窮邦人の大半は中高年層の男性で、日本のフィリピンパブで出会った若い女性を追いかけて渡航し、所持金を使い果たし、妻に捨てられる。年間平均気温が27度と温暖なために路上生活も日本ほどつらくなく、路上生活に陥って抜け出せなくなるというパターンだという(記事『フィリピンでの極貧生活「困窮邦人」の実態』)。……が、ちょっと社会の内実に迫る東洋経済さんにしては、ステロタイプな紋切り型でフィリピンを描きすぎではないかといいたくなる。一方で、華々しく描いているのがマレーシアだ。
マレーシアには世界の富裕層から注目を集めている教育特区がある。マレーシアは公用語はマレー語だが、英国の植民地だったこともあり、英語が広く使われている。そうした国際色豊かな環境を生かし、マレーシア政府は自国を「教育のハブ(中心)」にしようとしている。マレーシア第2の都市ジョホールバルでは、国家主導の都市開発が行なわれている。目玉の一つが教育特区の創設だ。一流の教育機関を世界中から誘致しており、日本の子育て世代にも優れた教育を、欧米より低いコストで受けられると関心が集まっているという。この都市開発計画の名を「イスカンダル計画」という。日本の30代以上には懐かしい「宇宙戦艦ヤマト」のヤマトが目指す惑星をほうふつとさせる名前だが、国境を接するシンガポールとの一体化を目指した壮大な計画なのだ。
イスカンダルの教育特区には、2011年に英国ウィリアム王子と結婚したキャサリン妃も卒業した英国名門校マルボロカレッジのマレーシア分校も昨年秋に開校した。年間学費は幼稚園約120万円、小学校約150万円、中学校約200万円と日本とそう変わらない。ならば、一流の教育が受けられ、人脈を作ることができるマルボロカレッジを、と日本人家族の教育移住の取り組みを紹介している。
レベル低下する日本型教育から逃れるために、「イスカンダル」に教育移住を目指すというわけだ。
それにしても、マレーシアとフィリピンのこの扱いの差はなんだろうか?
たしかにマレーシアの教育特区は注目されているのかもしれないが、フィリピンの取り上げ方に偏りがあるのではないか? アジアというときにフィリピンをどこか低く見がちな日本人の意識が率直に表れているものかもしれない。
(文=松井克明/CFP)