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2023.07.11 16:30
2016.06.10 00:09
碓井広義「ひとことでは言えない」
なぜ『北の国から』は20年間も続いたのか?空前絶後のドラマ、すべてが尋常ではない
そして肝心の物語も尋常ではなかった。東京で暮らしていた黒板五郎(田中邦衛)が、妻(いしだあゆみ)と別れ、子供たち(吉岡秀隆、中嶋朋子)を連れて、故郷の北海道に移住するという話だ。住もうとする家は廃屋のようなもので、水道も電気もガスもない。第1話で、純(吉岡)が五郎に、「電気がなかったら暮らせませんよッ」と訴える。さらに「夜になったらどうするの!」と続ける。五郎の答えは、純だけでなく、私を含む視聴者を驚かせた。五郎いわく、「夜になったら眠るンです」。
実はこの台詞こそ、その後20年にわたって続くことになる、ドラマ『北の国から』の“闘争宣言”だったのだ。夜になったら眠る。一見、当たり前のことだ。しかし、80年代初頭の日本では、いや東京という名の都会では、夜になっても活動していることが普通になりつつあった。“眠らない街”の出現だ。
『北の国から』と80年代
やがて「バブル崩壊」と呼ばれるエンディングなど想像することもなく、世の人びとは右肩上がりの経済成長を信じ、好景気に浮かれていた。仕事も忙しかったが、繁華街は深夜まで煌々と明るく、飲み、食べ、歌い、遊ぶ人たちであふれていた。日本とは逆に不景気に喘いでいたアメリカの新聞には、「日本よ、アメリカを占領してくれ!」という、悲鳴とも皮肉ともとれる記事まで掲載された。
そんな時代に、都会から地方に移り住み、しかも自給自足のような生活を始める一家が登場したのだ。これは一体なんなのか。そう訝しんだ視聴者も、回数が進むにつれ、徐々に倉本が描く世界から目が離せなくなる。そこに当時の日本人に対する、怒りにも似た鋭い批評と警告、そして明確なメッセージがあったからだ。
倉本自身の言葉を借りよう。放送が続いていた82年1月、地元の北海道新聞に寄せた文章である。
「都会は無駄で溢れ、その無駄で食う人々の数が増え、全ては金で買え、人は己のなすべき事まで他人に金を払い、そして依頼する。他愛ない知識と情報が横溢し、それらを最も多く知る人間が偉い人間だと評価され、人みなそこへ憧れ向かい、その裏で人類が営々と貯えてきた生きるための知恵、創る能力は知らず知らず退化している。それが果たして文明なのだろうか。『北の国から』はここから発想した」
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