視聴率は決して高くないものの、練り込まれたストーリーと実力派の俳優たちによる会話劇で熱い支持を集めるドラマ『カルテット』(TBS系)。7日に第8話が放送され、平均視聴率は前回より1.3ポイントアップの9.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)となった。直前に放送されたWBC中継が22.2%(同)と高い数字を記録したため、その流れで視聴した人も多かったと思われる。
これまで、松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平の4人が演じるカルテットのメンバーの秘密が少しずつ明らかになる軽いサスペンス的展開で進んできたが、第8話は一転して満島ひかり演じる世吹すずめの片思いにクローズアップしたストーリー展開となった。
ナポリタンを食べようとした時に、白い服を着ていた自分を気遣ってエプロンを掛けてくれた別府司(松田)のことがいつも頭から離れないすずめ(満島)。バイト先である不動産屋の社長(ミッキー・カーチス)からコンサートのチケットを2枚もらうも、「バイト先の男性から鉄板焼きに誘われたから」と嘘をつき、別府と早乙女真紀(松)に渡してしまう。
すずめは社長に話すのだった。
「わたしの好きな人には好きな人がいて、その好きな人も、私は好きな人。白い服を着てナポリタンを食べる時、そういう時にその人がちょっといて、エプロン掛けてくれるの。そしたらちょっとがんばれる。そういう、好きってことを忘れるくらい好き」
そうかなるほどー、と一瞬思ってしまうものの、よく考えると全然わからない台詞だ。だが、このわからなさこそが「カルテット」であり、すずめという人物だと思わせてくれるのだから、よくできたドラマではある。
「別府の負担になっているから、ここを出よう」と家森諭高(高橋)に持ち掛けるも、「真紀さんを見ている別府くんを見ているのがつらいんじゃないの?」と痛いところを突かれるすずめ。それほど身に覚えはなくても、視聴者の心にもグサリと刺さる。人間、ある程度年齢を重ねてくると、そうそう切ない思いをすることもなくなってしまうわけで、そんな時につくりごととはいえ、心をえぐられるような感覚を疑似体験するのは意外と心地よいものだ。このドラマが一部に熱狂的な支持を集めるのには、そんな要素もあるのではないだろうか。
予想できない展開に衝撃
家森が説く、「SAJの三段活用」も心当たりがありすぎる。いわく、興味のない人から「好きです」と言われても「ありがとう」としか返しようがなく、「冗談です」で会話を終わらせるしかない。これで“なかったこと”にして、みんな生きているのだと。この直後に、この通りの展開になる別府と真紀。真紀は別府の告白を受け入れず、「私たちは4人で出会ったのだから、このままみんなといたい」と告げる。
別府と真紀がコンサートに出かけている間、すずめは自分が真っ白な服を着て別府とコンサートに出かけた夢を見た。だが、2人で楽しく過ごした時間は幻。目が覚めると、その目からは一筋の涙がこぼれていた。誰も結ばれない、切ない展開である。だが、この4人の中で誰かと誰かが結ばれたとしたら、その時はカルテットが終わりを告げる時になるはず。真紀は、それがわかっているからこそ別府の告白を受け入れなかったのか。
場面は一転して、真紀の元夫の母親・鏡子(もたいまさこ)の自宅。富山県警の刑事がやってきて、真紀と元夫の結婚写真を見せた。鏡子は、「写真の女は、息子の妻だった早乙女真紀だ」と答える。それに対する刑事の言葉は、予想外のものだった。写真の女は早乙女真紀ではなく、本物の早乙女真紀はまったくの別人だという。「じゃあ誰なんですか?」「誰なんでしょう? 誰でもない女ですね」。
終盤に差し掛かったここにきて、登場人物の1人が他人に成りすました人物であったと明かされる衝撃の展開に、ネットには「ゾッとした」「ホラーすぎる」「血の気が引いた」などの感想が乱れ飛んだ。本物の早乙女真紀はすでに死んだのか、もしや今の偽早乙女真紀に殺されてしまったのか。大学時代から真紀のことを見ていたという別府の話との整合性はどうなるのか。
思い返せば、第7話で真紀はちょっと気になる台詞を口にしていた。
「こんな人間の人生なんかいらないもん!」
違和感を覚えた視聴者も多かったようだが、今になって思えば、他人の名前を乗っ取って生きる人生から逃げ出したかったということなのか。そして、彼女が4人で暮らすことにこだわる本当の意味とは--。残り2話でどう収拾が付くのか、まったく予想できない展開に、ますますファンの熱が高まりそうだ。
(文=吉川織部)