春の新作ドラマが少しずつ始まりつつあるが、現在もっとも注目すべきは『やすらぎの郷』だろう。
本作はテレビ朝日系で毎週(月~金)5日、12時30分から20分間放送されている帯ドラマだ。脚本を手がけるのは『北の国から』(フジテレビ系)の脚本を書いた巨匠・倉本聰。
主人公は、かつて数多くのテレビドラマを手がけた脚本家・菊村栄(石坂浩二)。妻に先立たれた菊村は、テレビドラマに貢献した脚本家、映画監督、俳優が入ることができるという老人ホーム・やすらぎの郷に入所する。
テレ朝の大英断は社運を賭けた大勝負?
本作の見どころは、大きく分けて4つ。
第1のポイントは、高齢者を主人公にしたシルバー層向けドラマをつくろうとしていること。
主人公の脚本家が倉本の分身であることは誰の目にも明らかだが、ここで描かれる老人はみんな若い。老人や老人ホームを描いたドラマは、どこか悲壮な感じが漂うものだが、古い台本、昔の映画やテレビドラマのアーカイブが充実しているという「やすらぎの郷」は、アミューズメント施設のようで、とても楽しそうだ。
今後は、かつての人気女優(演じるのは、浅丘ルリ子や加賀まりこといったベテラン女優)が登場し、菊村との恋愛沙汰に発展しそうだが、今の高齢者はそれくらいの若さと元気を持ち合わせているはずで、やっと現代の老人を正面から描くドラマが出てきたように感じた。
第2のポイントは、本作が月~金の週5日を2クール(半年)にわたって放送する帯ドラマということだ。
2010年代のテレビドラマは、NHKの“朝ドラ”の一人勝ち状態が続いている。1週間に1話、決まった時間に放送する1クール(3カ月)のドラマが、時代の流れに合わなくなってきている。
そんななか、毎日少しずつ放送され、再放送が充実している朝ドラは圧倒的な“見やすさ”によって人気を獲得していった。はやりに敏感なつくり手が、そのことに気づいていないはずがない。
『あまちゃん』(NHK)がヒットしたあたりで、民放でも朝ドラのような帯ドラマをつくりたい、と考えていた人は少なくなかったはずだ。しかし、毎日数分ずつ放送するとなると、スポンサー間の調整も必要なため、編成の都合でなかなか改革に乗り出せなかった。
しかし今回、テレビ朝日は大英断を行い、『徹子の部屋』と『ワイド!スクランブル』(第2部)の間に20分のドラマ枠を新設。これは、社の命運を賭けた大勝負といっても過言ではないだろう。
そして、第3のポイントは、この大勝負に打って出るのが巨匠・倉本聰だということだ。
『北の国から』という圧倒的な代表作こそあるものの、08年の『風のガーデン』(フジテレビ系)以降、民放地上波での連続ドラマは執筆していないため、現在のドラマ視聴者から見ると、倉本は過去の人となっている。