柴咲コウが主演するNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の第22回が6月4日に放送され、平均視聴率は前回から1.1ポイントダウンの12.1%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。
前回に続いて今回も龍雲丸(柳楽優弥)率いる盗賊たちにスポットを当てたが、内容的には見るべき点がなく、これまでのワースト回といってよいほどの残念な回になってしまった。今回起こったことといえば、「井伊の領民たちと盗賊たちとの誤解が解けてみんなが仲良くなった」ことだけ。はっきり言って、あってもなくてもどうでもいい話だ。
さすがにそれだけでは話が成立しないと思ったのか、森下佳子の脚本はここに恋愛要素を入れてきた。のこぎりで木を挽こうとする直虎(柴咲)にバックハグのように龍雲丸が覆いかぶさり、手に手を取ってのこぎりの動かし方をレクチャーする。後ろからぴったりと密着し、耳元で「歯が入ったのわかります?」とささやく龍雲丸には「下ネタじゃねーか!」とツッコミを入れたいが、当の直虎は「あ、わ…わかる!」となんだかぎこちない。直後に「煩悩め……滅したと思うておったが……」とつぶやいているところを見ると、バックハグで直親(三浦春馬)を思い出してしまったらしい。『直虎』でも恋愛要素はこれまでにさんざんあったし、直虎もお家のために独身を貫いている女性なのだから、少しはそういう話があってもいいと思うが、今回ばかりは端的に言えば「尼さんが男の体に触れて欲情した」というエピソード。少し生々しすぎるように思えてならない。
高橋一生の「不憫劇場」は盛り上がり中
直虎はその後も龍雲丸が気になって仕方がなく、領民と盗賊たちをもてなす宴会の席でも「そうやって我のもとを去るつもりであろう」「どうせどこかに子でもおるのであろう」と酒に酔ってからむ。龍雲丸に直親の影を重ねているのだ。直虎の頭の中で、タイプのまったく違うこの2人がどうなって結びついているのかわからないが、「我の者になれ」と命じるなど、たいそうご執心な様子。しの(貫地谷しほり)と悪口を言って盛り上がったエピソードで直親の件は終わったと思っていただけに、結局まだ直親のことが忘れられない直虎にちょっとうんざりする。
正体の知れない盗賊に心ひかれる直虎を横目に、政次(高橋一生)は「くだらんぞ、但馬」と独り言をつぶやいた。「あんな盗賊にやきもちをやくなんて、くだらんぞ、自分」という意味だろう。高橋一生の「不憫劇場」を楽しみにしている視聴者からは「自分が嫉妬を抑えることで丸く収めようとする政次が不憫」など、政次の心情を思いやる声が数多く上がった。だが、このシーンにはなんとなく取って付けたような感じが否めない。もしかしたら、いまひとつ存在意義が不明な龍雲丸とは、政次の不憫なシーンをつくり出すために生み出されたキャラクターではないのか。そんな考えすら浮かんでくる。
前回も今回も、歴史が大きく動く激動の展開の前の「箸休め」的な回だとは思うので、ここからおもしろくなっていくことを期待したいが、もう少しでいいから井伊家内部の話だけでなく、今川など周囲の動きも並行して描いてはどうか。それだけで視聴者離れを少しは食い止められると思うが。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)