一定以上の年齢の男性であれば、その多くに何かしらの思い出やエピソードの一つや二つがあるであろう「エロ本自販機」。昭和時代、日本各地の街角で示していたその圧倒的な存在感を、今でも懐かしく思い出す向きも多いことと思われる。
一方で、何かと「悪書である」と槍玉に挙げられることで次々と規制が入り、PCやスマートフォンで簡単に“エロ”を入手できる時代となったこともあって、街角から次々とその姿を消しつつあることも周知のとおり。
そんなエロ本自販機を、驚異の緻密さと執念で探し求め、その勇姿をまとめたのが『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)だ。なんと全320ページ、掲載された自販機設置店(場所)は約350カ所、厚さ約26ミリという超力作だ。
帯は「くだらなすぎて誰も手をつけてこなかった」と自嘲気味だが、エロ文化遺産のアーカイブ、歴史をたどる史料としても、そして古きよき時代への郷愁をかきたててくれる1冊としても、たとえヒットしなくとも見逃せない1冊となっている。
一体何を考えて、何を思えばこんな力作が生まれるのか、そして取材や構成にはどんな苦労があったのか。著者・撮影者である黒沢哲哉氏に話を聞いてみた。
街角で偶然見かけて「あ、まだあるんだ」と思ったのが始まり
――まず『あの日のエロ本自販機探訪記』を発行するに至るまでの経緯――エロ本自販機の写真や情報をまとめようと思われたキッカケ、そしてなぜそれを1冊にまとめようと思われたのか、それぞれ教えてください。
黒沢哲哉(以下「黒沢」) 最初はどこかに載せるつもりもなかったんです。ドライブが好きでよく夜中に車を運転するんですが、たまたまエロ本の自販機を見かけまして。その時は「あ、まだあるんだ」と思ったぐらいでしたが、ドライブ中にそうやって2~3カ所、見つけたんです。
久々に自販機を見つけてうれしかったので、近場だけでももっと探してみようかなと思って、見つけるたびにGoogleマップにマッピングしていったんです。そんなことをしていると次第に地方の情報も集まりだしたんですが、最初はスルーしていたんです。実際、なかなか行って見ることができませんから。
ところがあとからあとからどんどん見つかっていく。ああ、これは相当あるなと思って、マッピングだけはするようにして。その数が増えるにつれて、一度これはちゃんと調べてみるしかないと思うようになりました。
――「まだあるんだ」と気になるのはわかりますが、そこでちゃんと調べよう、と思われたのはなぜですか? きちんとしてないと気になるとか、情報を集めたいというコレクター気質なところがおありなんですか?
黒沢 ああ、それはありますね。普段は編集・ライターとして昭和ネタのコラムを書いたり、昔のマンガを複刻したりしていますし。関連書籍も多数集めていまして、一度、アパートの床が抜けたこともあります(笑)。
書籍で床が抜けたとき、モノを集めるのはやめて、ドライブが好きだから色んなところを巡ってみようかなと考えていた際に、自販機を見つけたんです。これだったらデータが増えるだけですから(笑)、ちょうどいいかなと。
もうひとつ、これは2009年ごろですが、ある雑誌で懐かしい昭和についてというようなテーマでコラムを書いていたんです。毎回担当編集と話しながらテーマを決めていたんですけど、ある時「エロ本自販機の話なんてどうですかね?」「いいですね」となって。1回記事を書いたことがあるんです。
その際、1度エロ本自販機を探したんですけど、当時は今ほどネット上で情報を見つけられなくて、それが心残りだったんですよね、ちゃんと探せばもっとあったんだろうと少し気にはなっていたんですが、特に調べてみたりはしなかった――という状態が長く続いて、ようやく最初のお話に戻るんです。再開したのは14年1月ごろ。久しぶりに自販機を探し始めたら、すごくネットでの情報収集がやりやすくなっていまして。
――やはりSNSの普及が大きかったんでしょうか?
黒沢 それもありますが、大きいのはGoogleのストリートビュー。現地に行く前に大体の状況がつかめるので、情報だけつかんで現地に行ってみたら撤去されていたとか、情報が間違っていた、という空振りが極端に減りました。