松本清張の長編小説を原作とする連続テレビドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)が、7月20日に放送を開始した。第1話の平均視聴率は11.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と2ケタ発進となったものの、主演の武井咲の“致命的欠点”に今後の不安を感じずにはいられなかった。
銀行の支店で働く派遣社員の原口元子(武井)は、母親が遺した借金を返済するため、夜は銀座のクラブでホステスとしても働いていた。第1話では元子が働く銀行で、来店した客の写真がSNSにアップされるという事件が勃発。元子は派遣仲間の山田波子(仲里依紗)から、犯人はコネ入社の新人ではないかと聞いていたが、支店からはなぜか元子と波子の契約を更新しないと告げられる。
自分たちに罪をなすりつけてコネ社員を守ろうとしていることに気づいた元子は、以前から違法な“借名口座”に金を預ける預金者などをメモしていた“黒革の手帳”を武器にして、1億8000万円を横領。その金で銀座に高級クラブを出店し、自ら“ママ”となって夜の世界でのしあがっていくという物語が幕を開けた。
小説『黒革の手帖』はこれまでに複数回ドラマ化されており、2004年には米倉涼子主演の連ドラが大ヒット。その時は初回平均視聴率17.4%を叩き出していただけに、事務所の後輩にあたる武井はなんとか2ケタを獲得したとはいえ、女優として“格の違い”が改めて強調された形だ。
ただ、米倉と武井ではまったく比べ物にならないことくらい、初めからわかりきっていた。今回、武井の起用が発表された当初から、インターネット上でも「米倉の『黒革の手帳』が好きだったから、武井バージョンは見る気になれない」など、散々な言われようだった。こうした世間の声は本人の耳にも入っているだろうし、相当な覚悟と気合で臨んだのではないかと想像できる。
実際、第1話で武井を見ていて、「がんばっているな」とは感じた。これまで、武井は散々「演技力がない」といわれてきたが、今回は彼女の中にある最大限の“黒さ”を出そうとしていたと思う。また、武井は演技が下手でもブスではないし、特に目元は印象的。その魅力的な目元を活かし、「銀行の窓口なのに機械的で愛想の無い表情」や、「男性に対して伏し目がちに笑う仕草」、さらに「お金に執着する者の目」を表現していた。
しかし、そんな武井の努力を台無しにしてしまうのも、彼女自身。残念ながら、武井は声が幼く、力強さを感じられないのだ。横領後に銀行に乗り込んだ時のハードな服装はビシッと決まっていたし、クラブのママとして着た和装も似合っていて美しかった。けれども、一言セリフを喋ってしまうだけで、途端にガッカリさせられる。幼さのせいで“生意気”に聞こえてしまい、「どっしり肝が据わった女」というよりは、「若い子が調子に乗っちゃってる」ような印象を受けた。
そのため、本来なら今後は元子の“世渡り術”や、それに伴う他者との“駆け引き”などが期待されるはずが、武井版元子には、どうしても「大丈夫? 失敗しない?」と心配せずにはいられない。第2話以降は、ハラハラしながら元子の動向を見守ることになりそうだ。
(文=美神サチコ/コラムニスト)