2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』がいよいよ1月7日に初回を迎える。『Doctor-X 外科医・大門未知子』シリーズや朝ドラ『花子とアン』などを手掛けた人気脚本家・中園ミホが脚本を担当し、若手ながら実力派の呼び声も高い鈴木亮平が主演を務めるとあって、注目を集めていることは間違いないだろう。
だが、果たして高視聴率を狙えるかというと、現時点で公になっている情報から判断すると、難しいといわざるを得ないだろう。
大河ドラマではそもそも、「幕末モノは視聴率が取れない」というのが定説となっている。確かに、近年の作品でも『花燃ゆ』(15年)や『八重の桜』(13年)が、15%に届かない平均視聴率に留まっている。一方で平均視聴率が25%近くまでいった『篤姫』(08年)のような例もあり、必ずしも当たっているとはいえないのだが、ある程度理由は推察できる。幕末は戦国時代に匹敵するほどの激動期であり、人間関係や歴史の動きがわかりにくいのがひとつ。もうひとつは、およそ150年前の歴史は、客観的に見るにはまだ生々しすぎるという点だ。今回は西郷が主役であることから、どうしても薩摩中心の史観となってしまうことが予想されるが、これに反感を抱く人も少なくないだろう。
また、原作や脚本にも不安要素が垣間見える。今回は林真理子の小説『西郷どん!』(KADOKAWA)を原作としているが、林は番組公式サイトで「彼をめぐる女性たち、流された島々を深く描くことによって、いままで誰も書かなかった西郷どんを作り上げているという自負があります」と語っている。西郷の周りの女性を描くことで新たな西郷像を描いたというこの主張、わからなくもないが、非常に地雷感というかスイーツ臭が漂う。もし西郷の恋愛パートに尺が多く割かれるとしたら、あっという間に視聴者は離れてしまうことだろう。
冷酷だった西郷を描けるのか
残念なことに脚本の中園まで「セゴドンという男の魅力に、女の視点で切り込みます」と番組公式サイトでコメントしているが、「女の視点」とはなんなのか。まさか、さんざん使い古された「戦の世はもういやだ」ではないと思いたいが、さまざまなネットでの反響を見るに、大河ドラマの視聴者層の大半は大河ドラマに「女の視点」など求めてはいない。男性視聴者だけではなく、女性視聴者も骨太な展開を好む傾向にあるようだ。『おんな城主 直虎』が当初こそ「スイーツ大河」と揶揄されながらも、戦国らしい殺伐とした展開で「スイーツかと思ったら激辛だった」と好評価に転じたのは記憶に新しい。ただ、結局、スタートダッシュの失敗は最後まで響き、全話平均視聴率が12.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)に終わったことは記憶に新しい。
そもそも、西郷隆盛という人物は「女の視点」で見た時に魅力的な人物といえるのか。一部からは反感を買うかもしれないが、西郷を温厚で器の大きな好人物ととらえるのは誤りだ。もちろんそうした一面もあったに違いないし、情に厚かったのも事実だろうが、目的なためには手段を選ばない冷酷な面も持ち合わせていたともされる。あくまでも武力による討幕を画策し、江戸一円で強盗や放火、辻斬りなどを行って治安を悪化させる集団「薩摩御用盗」を指揮したのはまぎれもない事実。決してきれいごとだけを行ってきたわけではなく、どちらかというと「大義のためなら犯罪もやむを得ない」という考えも持った男だった。
普通の女性はそんな危ない男性を魅力的に感じないはずなので、中園氏は西郷のダークな面をスルーしたのか、あるいはそれも含めて魅力だととらえたのかのどちらかだろう。女の視点かどうかはともかく、こうした主人公のダークな部分を美化せずに正面から描写できるかどうかに、『西郷どん』が成功するか否かがかかっているのではないだろうか。そこを回避して、きれいごとで済ませてしまうと、ドラマに深みが生まれないように思う。鈴木亮平なら、敵にはとことん冷酷な一方で家族や仲間にはめっぽう優しく慕われる人間像を好演してくれるはずだ。
果たして、視聴者のほとんどは求めていないと思われる恋愛パートは短めになっているのか、西郷の良い面も悪い面も公平に描かれているのか。答えはそれほど遅くないうちに明らかになりそうだ。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)