鈴木亮平が主演を務めるNHK大河ドラマ『西郷どん』の第3回が21日に放送され、平均視聴率が14.2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。初回、第2回より1.2ポイント低下した。
薩摩藩は日本一武士の割合が多く、その大半は貧しい暮らしを送っていた。西郷家も例外ではなく、吉之助(鈴木)は父・吉兵衛(風間杜夫)とともに商家から百両もの大金を借り入れた。一方、江戸にいた島津斉彬(渡辺謙)は薩摩藩を改革すべく、藩主である父・斉興(鹿賀丈史)の不正を幕府に訴え出た。老中・阿部正弘(藤木直人)は薩摩藩の家老・調所広郷(竜雷太)を呼び出すが、すべて自分の独断であり、斉興はあずかり知らぬことだと言い張る広郷の前になすすべがなかった。広郷はその日のうちに自害してしまうが、怒り狂った斉興は、斉彬派とみなした者たち総勢50名に切腹や島流しなどの沙汰を下した――という展開だった。
今回描かれたのは、薩摩藩を大きく揺るがしたお家騒動「お由羅騒動」の顛末。序盤の山場として骨太な展開が期待されたが、まったくの期待外れ。伏線や積み重ねがないままに登場人物たちが動いているため、行動にも展開にも説得力や必然性がなく、見ていても感情がまったく動かされない。淡々と再現VTRを見ているようで、およそドラマとは言い難い。
たとえば、この事件が「お由羅騒動」と呼ばれたことは視聴者に伝えられるのに、なぜそう呼ばれるようになったのかはドラマを観てもさっぱりわからない。最低限、由羅(小柳ルミ子)が斉興をいいように操っていたという伏線を描き、視聴者に「悪女」のイメージを植え付けておかなければならないのに、これまでにほとんどそうした描写はなかった。
また、お由羅騒動は斉彬支持派と久光(青木崇高)支持派による跡目争いの側面が強かったとされるのに、脚本の中園ミホ氏はこれをほぼ完全スルー。その一方でナレーションの西田敏行には「総勢50人もの斉彬派が処罰された」との台詞を当てたが、今まで登場したこともない「斉彬派」が切腹させられたと急に言われても、なんの感情も動かされない。「はあ、そうですか」と思うばかりである。
藩主の嫡男が父の罪状を幕府に言い立てるという大事件と、藩主の跡目争いが同時に勃発しているのだから、いくらでも盛り上げようがあるはずだ。さまざまな思惑が入り乱れる虚々実々の駆け引きをじっくり描けば、かなりおもしろい歴史劇になったに違いない。だが、実際には大河ドラマとして格好の題材を掘り下げることなく、あっさりと表面的に描いただけで終わらせてしまった。
脚本の中園氏は『西郷どん』に関するインタビューの中で「(私は)歴史ものに強いわけではありません」と明言したことがある。そうは言っても、きっちり描いてくれるだろうと期待していたが、やはり苦手なものは苦手だったのだろう。歴史上のできごとをなるべく簡単な構図にし、関わる人間も最小限にとどめてさっさと終わらせようという意図が感じられる。
その一方で、吉之助が熊吉(塚地武雅)の母に米俵を送ったというさほど重要でない場面には尺を割き、「あいがとなあ」と涙を流さんばかりに感謝する熊吉の母を延々と映し出す。ある意味、本作の目指す方向性が視聴者に向けて明確に打ち出された回であったことは間違いない。もちろん、この方向性が視聴者に支持される可能性も大いにある。今後の展開を引き続き見守りたい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)