10月21日に行われた全日本実業団対抗女子駅伝予選会(通称:プリンセス駅伝)は、「駅伝」というスポーツの危険性がフィーチャーされる大会になってしまった。まずは2区(3.6km)で、負傷した岩谷産業の飯田怜がタスキをつなぐため、四つんばいになってレースを続けたことが賛否を巻き起こしている。
飯田は中継所まで約250mのところで転倒。その後はタスキを左手に持ち、両手と両膝を使ってアスファルトの上を進んだ。飯田の両膝からは血がにじみ、次走者の今田麻里絵はサングラスを上げて涙を拭った。このシーンを見て、「感動した」という視聴者もたくさんいたことだろう。
異変に気づいた廣瀬永和監督は、すぐに主催者側に棄権することを伝えたものの、飯田がレース継続の意思を示したため、担当者が再度、監督に確認作業を行った。その間に中継所まで残り約15mのところまで進んでいたため、競技が続行されたという。レース後、廣瀬監督は、「誠に遺憾であり、大会運営の改善を願う」とのコメントを発表した。
タスキはどうにかつながったものの、飯田は右脛の骨折で全治3~4カ月と診断された。選手の奮闘に称賛が集まった一方で、主催者には「やめさせるべきだった」との批判も寄せられている。20年近く駅伝を取材してきた身としては、廣瀬監督の言い分も理解できる。だが、今回はランナーの意識がハッキリしていた。「アスリート・ファースト」という観点からも、審判員の判断は妥当だったと思う。もし、この状態で審判員が選手にストップをかけていたら、それはそれで大騒動になっていたはず。飯田も体の傷以上の“傷”を負ったかもしれない。
ただし、テレビ中継を確認すると、飯田のすぐ後ろを審判員が歩き、バイクカメラも真横についた。こうなると選手のほうも、やめたくてもやめられない。周囲からの「がんばれ!」という無言のプレッシャーから、途中棄権を決断できなかったことも考えられる。
駅伝の場合、監督などチームスタッフが選手に触れた場合は棄権となるが、箱根駅伝のように監督が運営管理車に同乗して、チームを追いかけるというレースは少ない。最終的には選手の判断に委ねられることになる。今回の件では、審判員への批判が強いが、各チームで「こういう場合は途中棄権しよう」というガイドラインを定めておくことが、選手の身を守ることにつながるのではないだろうか。