ハリウッド映画も同じで、8割以上の国民が理解できる単純な波でつくられているわけです。そこに半分くらいの人たちが反応するような、人間の情緒の物語が入れてある。さらに1割以上のレベルの高い専門家たちが『なるほど。凄い』と唸ってくれるような専門的な話もちりばめてある。そういうバランスでできている作品が名作といわれるわけです」
NHK制作陣はサービス精神欠如?
放送はNHK総合の日曜午後8時よりも前に、BS4Kで日曜午前9時、BSプレミアムでは日曜午後6時と2回放送されている。そのため、視聴率低迷という評価は適切ではないのでは、という見方もある。
「まったく関係ありません。BS4Kは50万世帯しか見られません。たとえ全員見たとしても1%。朝の9時に全員見るとは思えないので、10万世帯として0.2%ですから。BS自体の普及率は、ここ5~6年、ほとんど高原状態で増えていません。2015年に放送された『花燃ゆ』もBSプレミアムでも放送されていました。『花燃ゆ』も低視聴率でしたけど、第6回目までの平均で『いだてん』は『花燃ゆ』を2%も下回っています」
クドカンワールド炸裂のドラマ展開が、視聴率が取れない原因なのだろうか。
「複雑さで失敗したのは、『いだてん』が初めてではありません。大河ドラマのなかで史上最低記録だったのが『平清盛』。なぜ数字が取れないのかとなった時に、時代の雰囲気を出すためにわざと画面を汚していて、映像が汚いと問題になりました。
本当の原因はそこではない。朝廷があって、平家がいて源氏がいるわけですが、源氏のなかに平家から寝返ったやつがいる、平家のなかに源氏から寝返ったやつがいる、朝廷にも平家側と源氏側がいる。単純に見ても、朝廷に2通り、源氏に2通り、平家に2通りと、対立構造が3層にわたってるんですよ。視聴率が落ちてくるのは中盤以降でしたけど、話が進んでいくにつれて登場人物も増えて三層構造がどんどん複雑になって、見ているほうは『こいつ、いったいどっち側の誰だったっけ?』みたいなことになって、ついていけなくなったんです。
私もNHKに32年もいたので、ほとんど天に唾するようなものですけど、NHKの皆さんって偏差値60以上の人たちに向けてつくっているようなところがあるんですよね。『自分たちは賢いんだ』とか、『自分たちがこんなに取材しました』『自分たちはこんなこと知ってます』というのを、全部詰め込んでしまうような悪いクセがある。普通の人たちがわかるように、おもしろがれるようにつくるというサービス精神に欠けてるんですよ。