土屋太鳳、松岡茉優を生んだ『鈴木先生』も視聴率はふるわず…平成の大爆死ドラマを検証
平成は、失敗に対し厳しい時代だった。特にインターネット上では、失敗は何よりの話題のタネであった。かつてはBBSで、その後はSNSで、何か失敗をした人は徹底的に責められ続けた。また、エンターテインメントの世界でビジネス的に大失敗したコンテンツ、大きくコケた企画は、笑われ、貶され、バカにされた。
現在、メディアには平成をプレイバックする企画が溢れているが、失敗に厳しくなった時代の最後に、ここでは、各ジャンルの「大失敗案件」を、数回に分けてクローズアップしてみたい。今回は第2回・テレビドラマ編である。
なおここでは、そもそも5%以下の視聴率も珍しくもない深夜枠ドラマは、紹介する対象からあらかじめ省いた。また、視聴率はすべてビデオリサーチ調べ(関東地区)のものとする。
映画化前提は無謀過ぎた? EXILE・AKIRAの主演作
大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK)や『ストロベリーナイト・サーガ』(フジテレビ系)の低視聴率が話題になるように、インターネットの普及以後、テレビドラマの失敗への人々の関心度はアップしているようだ。そのためか、歴代の低視聴率ドラマをリストアップしたサイトなどもいくつも存在する。まずは、そうした場で話題になりがちな近年の大失敗案件について触れておきたい。
川口春奈、鈴木砂羽らが出演の『夫のカノジョ』(2013年/TBS系)は、もし、夫の不倫を疑う主婦と、不倫相手と疑われているOLとが入れ替わったら……という設定。この作品、ウラに『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)があったこともあり、初回、第2話が4%台で、以後は最終話である第8話(当初は9話までだった)まで、ほぼ3%台という低空飛行が続いた(平均3.87%)。
当初11話が予定されていたが8話で終わったのが、『家族のうた』(2012年/フジテレビ系)だ。オダギリジョー演じる元・人気ロックミュージシャンが、困難に立ち向かいながら大切なものを見つけていく……というこの作品、第1話こそ6.1%をとるが、以後は3%台に低迷。第4話では3.1%を記録する(平均3.9%)。
映画化を前提に企画された『HEAT』(2015年/フジテレビ系)もハズせない。EXILEのAKIRAが主演。解散騒動前の稲垣吾郎が脇に回った。初回の6.6%が最高で、以後はほぼ3%台に下落。第6話では遂に2.8%にまで落ち込んだ。あまりの低視聴率で映画化の中止は、当然の判断だった(平均4.1%)。
来年の大河主演俳優、そして剛力彩芽が1%台ドラマに主演
以上が視聴率3%台の世界。下には下がいるもので、実は平均2%台の視聴率を残した番組もあった。長谷川博己主演の『鈴木先生』(2011年/テレビ東京系)がそれだ。平均視聴率 は2.06%。しかも、第6話と第9話は、1.6%という空前の数字を記録している。
この作品は内容的には評価が高く、いくつもの賞を受賞し、映画化もされている。また、生徒役の中に土屋太鳳、松岡茉優と、その後の人気女優がいたこともあり、今後も再評価される機会がありそうではある。
テレビドラマというのは、放送枠自体に固定視聴者が存在し、それが視聴率のベースになる傾向がある。『鈴木先生』には、ドラマに弱いテレ東の番組であること、ドラマ枠として馴染みの薄い月曜22時の放送であることなど、もともと不利な条件が揃っていた。同じことがその後番組にもいえた。次の『IS~男でも女でもない性~』(2011年)も大惨敗だったのだ。主演は福田沙紀と剛力彩芽。平均2.4%と『鈴木先生』を上回るものの、単一回の視聴率では1.5%とワースト記録を残している。
AKB48以前、秋元康が手がけたドラマは1.2%を記録!
だが、インターネット普及前には、1.5%をさらに下回る視聴率を記録したゴールデンタイムのテレビドラマが存在した……。
1995年、テレビ東京の土曜22時に放送された『クリスマスキス~イブに逢いましょう』がそのひとつ。出演は中嶋朋子と元光GENJIの佐藤敦啓。遅れてきたトレンディドラマのようなタイトルだが、ベタな恋愛ドラマではなく、この時代にはやっていたサイコサスペンス風味の作品だ。
企画・監修としてクレジットされているのが、AKB48を当てる前の秋元康であり、監督として堤幸彦の名前もある。ヒットメーカーが手がけたものの、第一話で2.9%を記録すると、数字はどんどんダウンしていき、第4話では1.2%という驚異的な数字を残した(これが全話中の最低視聴率)。
テレ東以外で初回1%台という壊滅的視聴率を出したドラマとは?
ただし、1%台を記録した『鈴木先生』『IS~』『クリスマス~』は共に、「まあ、テレ東だから……」という言い訳ができなくはない。そんななか、言い訳できないウルトラ大失敗案件がある。
タイトルを、『ダウンタウン探偵組’91』(テレビ朝日系/朝日放送制作)という。元やくざの組長が刑務所から出所後、探偵事務所を始めるというストーリーだ。実はこの作品は続編であり、オリジナルの『ダウンタウン探偵組』というドラマが1988年に放送されていた。放送枠は金曜22時で、こちらはコケた訳ではない。だからこその続編制作なのである。
だが、オリジナルの放送後、テレ朝は金曜22時枠に『ニュースステーション』(それまでは金曜に限り23時~だった)を編成したため、続編の放送枠は変更になる。それが、『世界まる見え!テレビ特捜部』(日本テレビ系)、『水戸黄門』(TBS系)、『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ系)と人気番組がひしめいていた、月曜20時枠だ。テレ朝はここに、「月曜ホームミステリー」なるドラマ枠を新設。その第1弾作品が、『ダウンタウン探偵組’91』だったのだ。
その第1話の視聴率は、なんと1.4%。これがおそらく、平成における非テレ東地上波ゴールデンタイムの連続ドラマのボトムであろう。気になるキャストはというと、主演はただひとり、オリジナルからの続投となる風間杜夫で、ほかに樹木希林、中村あずさ、安永亜衣らも出演。
1980年代前半に、映画『蒲田行進曲』(1982年/松竹)、テレビドラマ『スチュワーデス物語』(1983年/TBS系)という代表作を残した風間杜夫だが、すでにテレビの主演作は途切れていた時期。樹木希林は、のちの“有り難いおばあちゃん”のパブリックイメージを築く前だ。大映テレビ作品『プロゴルファー祈子』(1987年/フジテレビ系)で知られる安永亜衣、主演Vシネマ『女バトルコップ』(1990年/東映)がカルト作品化している中村あずさも、視聴率に貢献するほどの人気はなかったということだろう。このメンバーは、バブルの余韻が色濃く残る1991年にゴールデンタイムで勝負するには、地味過ぎたのである。
第2話は4%台に上がったが、以降もテコ入れ的な若手イケメンの投入や大物ゲストの登場などもなく、ほぼ2%台が続き、10話で終了。放送枠の大幅変更は前作の視聴者を切り捨てる無謀な挑戦である。むしろ、テレ朝的には消化試合的位置づけだったのかもしれない。