近年、Twitterで「NHK 偏向」で検索すると、「報道内容が偏っている」「公共放送の立場を逸脱している」といった旨の発言が目に入ってくる。 今回、取り上げたいのは、この件に関して……ではない。むしろ、それとは無関係な“ある点”において、「NHKがきわめて偏っているのではないか?」というのが、本稿のテーマである。
では、何が偏っているのか? それは、キャスティング。平成期の大河ドラマ主演俳優の“キャスティング”である。 視聴率、クオリティの両面で失敗を避けたいNHK側は当然、大河ドラマという金看板を背負わせる俳優を慎重に選ぶのだろう。
ゆえに、民放ドラマのように、演技経験が乏しい若手を主役に据えるようなことはしない。しかし、そういったテレビ業界の“前提”を考えても、やはりなお偏っているのではないかと思われても仕方のない現状がある。
2019年1月6日より放送が始まった平成最後の大河ドラマ作品『いだてん~東京オリムピック噺~』(以下、いだてん)には、日本人初のオリンピック選手となった“日本のマラソンの父”金栗四三(六代目中村勘九郎)と、東京オリンピック招致に尽力した田畑政治(阿部サダヲ)という2名の主人公がリレー形式で登場する。
この俳優2名のうち1名は、本稿で指摘する“偏りパターン”に即した人選なのだ。 はたしてそれは……?
というわけで、『春日局』(1989年)から『いだてん』(2019年)まで、平成期に放送された全33作品39名(ダブル主演、トリプル主演作があるので)の大河ドラマ主演俳優に見る、NHKの偏りについて、勝手ながら検証してみたい。
ジャニーズに偏っている!
蜜月は郷ひろみ在籍時から。香取慎吾&滝沢秀明の連続主演など高い起用率
昭和の時代から、NHKとジャニーズ事務所は密接な関係を築いており、当時所属していた郷ひろみを『新・平家物語』(1972年)に出演させたのを皮切りに、薬丸裕英(当時・シブがき隊)と錦織一清(当時・ジャニーズ少年隊)を『峠の群像』(1982年)、岡本健一(当時・男闘呼組)を『独眼竜政宗』(1987年)にと、売り出し中の若手を頻繁に端役として出演させていた。
そんなジャニーズ勢で最初に主演の座を掴んだのは、『琉球の風』(1993年)の東山紀之(少年隊)だ。この作品は、主人公が架空の人物であったこと、放送期間が半年間だったこともあってか、あまり人々の記憶には残っていないかもしれない。以後、ジャニーズ所属俳優の主演作はしばらく途切れるが、2000年代になると状況が一変する。
香取慎吾(当時・SMAP)の『新選組!』(2004年)、滝沢秀明(当時・タッキー&翼)の『義経』(2005年)と、2年連続の起用があったのだ。これには、“アンチジャニーズ勢”からブーイングが起こることは必至だった。しかし、NHKとジャニーズの強い関係は揺らぐことがなく、2014年には、V6の岡田准一主演の『軍師官兵衛』が制作される。
さらにこの『軍師官兵衛』には生田斗真も出演し、続く『花燃ゆ』(2015年)に東山紀之、『真田丸』(2016年)に岡本健一、『西郷どん』(2018年)に関ジャニ∞の錦戸亮、風間俊介、『いだてん』に再び生田斗真と、大河ドラマとジャニーズの蜜月は続いている。
そういえば、実際には福山雅治が主演した『龍馬伝』(2010年)は当初、当時SMAPに属していた木村拓哉のキャスティングが想定されていたという説もあった。
これからも、嵐の二宮和也のような、俳優業に重きを置いているジャニーズ事務所所属タレントの主演作はあると見ていいだろう。
ホリプロに偏っている!
松山ケンイチ&綾瀬はるかの連続キャスティングなど、近年になって極端に
ジャニーズ以外にも、民放テレビドラマの主演級俳優を多数擁する大手芸能プロはいくつかある。この10年の傾向ながら、NHKはそのなかでもなぜかホリプロからだけ、次々と大河ドラマ主演俳優を選んでいるのだ。
『天地人』(2009年)の妻夫木聡に始まり、『平清盛』(2012年)で松山ケンイチ、『八重の桜』(2013年)で綾瀬はるかと2年連続の起用。そして、『西郷どん』(2018年)は、当初噂された堤真一(シス・カンパニー)ではなく、ホリプロの鈴木亮平を抜擢した。
他の大手プロ所属の大河主演俳優の数と比べると、ホリプロへの偏りは一目瞭然だ。
いまやホリプロと同等かそれ以上の勢力を誇るアミューズは、助演俳優こそ多く送り出してはいるが、主演は『龍馬伝』の福山雅治、『江~姫たちの戦国~』(2011年)の上野樹里と、2名。ほかに複数輩出しているのはフロム・ファーストで、『秀吉』(1996年)の竹中直人と『徳川慶喜』(1998年)の本木雅弘の2名。研音は『利家とまつ~加賀百万石物語~』(2002年)の唐沢寿明、スターダストは『おんな城主 直虎』(2017年)の柴咲コウと、各1名のみ。オスカー、ケイダッシュ、レプロエンタテインメントなどの大手プロに至ってはゼロなのである(渡辺謙のケイダッシュ移籍は、1993年の『炎立つ』に主演後のこと)。
こうして見てきても、やはりホリプロの4名というのは非常に際立っているのがわかるだろう。今後も、石原さとみあたりが主演する大河ドラマが制作される可能性は、大いにあるのではないだろうか。
歌舞伎に偏っている!
第1作から続く高依存率。五代目&六代目勘九郎は父子で主演
現在、一般的に“歌舞伎”と呼ばれるものは、主に歌舞伎座をホームグラウンドとする松竹による興行を指す。つまり、ジャンルの名称であると共に、ひとつの劇団名のような性質を持っているのだ。一部を除き俳優のマネジメント窓口が松竹というわけではないので、厳密にはジャニーズやホリプロのような芸能プロとは違うが、実は平成期にもっとも多くの大河主演俳優を生んでいる母体は、歌舞伎なのである。
『毛利元就』(1997年)の八代目中村芝翫(当時・中村橋之助)、『元禄繚乱』(1999年)の十八代目中村勘三郎(当時・中村勘九郎)、文字通り三代の主役が存在した『葵 徳川三代』 (2000年)の四代目尾上松緑(当時・尾上辰之助)、『武蔵 MUSASHI』(2003年)の十一代目市川海老蔵(当時・市川新之助)、『いだてん』(2019年)六代目中村勘九郎……といった面々だ。ジャニーズ、ホリプロを上回る計5名。勘三郎と勘九郎は父子だというのも特筆点だ。
そもそも、大河ドラマ第1作『花の生涯』(1963年)の主演俳優は二代目尾上松緑であり、大河ドラマが歌舞伎俳優を起用しがちな傾向は平成に始まった話ではない。
歌舞伎界が頑なに血筋を重んじ、世襲制を守り続けていることで、そのステータスは簡単には落ちることはなさそうだ。また、著名俳優の息子は幼少時より舞台に上がることで芸の質も保たれている。今後も、大河ドラマの歌舞伎への依存度が変わることはないのだろう。
将来的には、勘九郎の長男・三代目中村勘太郎を主役に据えるということもあるかもしれない。
このように、平成期の全33作品で39名の俳優が主演しているが、そのうち13名、つまり3分の1がジャニーズ、ホリプロ、歌舞伎系の俳優なのである。
しかし、平成の大河ドラマ一覧を俯瞰すると、この傾向を凌駕する、“ある偏り”が存在することに気づかされる。
西田敏行に偏っている!
平成期にたったひとりで3作品。昭和も併せれば4作品に起用
実は平成の大河ドラマは、ひとりの俳優に偏っていた。
なんと、NHKは西田敏行を、『翔ぶが如く』(1990年)、『八代将軍吉宗』(1995年)、『葵 徳川三代』(2000年)と、33作品のうち3作品に主演させているのだ(『飛ぶ~』と『葵~』は複数の俳優が主演)。
それだけではない。昭和期の『山河燃ゆ』(1984年)でもダブル主演のひとりであり、主演作は通算4作品を数える。もちろんこれは史上最多の記録だ。
加えて、『武蔵 MUSASH』、『功名が辻』(2006年)、『八重の桜』、『西郷どん』にも、それぞれ重要な役で出演。西田敏行こそ、NHKもついつい偏ってしまう、平成を代表する国民的俳優だということなのだろう。
ただし、西田主演作はいずれも20世紀の制作。世紀が変わってからの主演俳優22名(19作品)に限れば、ジャニーズ、ホリプロ、歌舞伎系俳優が計9名と半分に近い割合だ。この数字だけを注視すれば、やはりNHKは偏っているように思えてならないのだ。